身体感覚と社会性

”日本の研究.com”というサイトがあります。
日本人の優れた研究が国際学術誌に載った時に、
プレスリリースとして、詳しく解説して下さるサイトです。

今回、
身体の中の感覚に気づきやすい人ほど、表情模倣が起こりやすく、他人の視線にも敏感であることを解明 ーヒトの社会性が身体に根差す可能性を示す新証拠ー
という題名の研究紹介がありました。

2020年11月16日に国際学術誌「Scientific Reports」の
オンライン版に公開されたそうです。
Interoception is associated with the impact of eye contact on spontaneous facial mimicry(内受容感覚は自発的な表情模倣に対するアイコンタクトの影響と関連している)


著者は武蔵野大学・関西大学・京都大学・東京大学の
研究グループ。
「内受容感覚(心拍知覚)が正確な人ほど、他人への自動的な表情模倣が起こりやすいことや、内受容感覚が正確な人ほど、他人と目を合わせる(アイコンタクトをする)ことによって、その人に対してより表情模倣をしやすくなる」
ということらしい。

近年、内受容感覚(自分のカラダの中の感覚)の敏感さと、
他者の感情の認識力との関連について、
研究者の関心が高まってきているのだそうです。

一方、他人と動きや表情が自動的に伝染するような
「自動模倣」の現象(例えば、他人の笑顔につられて笑う)は、
他者への共感などに深く関わると考えられてきているそうです。

また、自動模倣の現象は、
相手と目を合わせる(アイコンタクトをとる)ことで
生じやすくなることも知られていて、
アイコンタクトは対人関係における重要なシグナルである
とのこと・・・まあ普通に考えてもそうですね。

今回そのあたりのことを実証したそうです。
つまり、自分の心拍数を正確に把握できる人の方が、
表情模倣が起こりやすく、
「視線」などの社会的シグナルに敏感である可能性を
示すことができたとのことです。

僕はこの論文の紹介を読んで、
あれ?これって、
「ポリヴェーガル理論」のことではないかな?
と思いました。

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以前このブログで『ポリヴェーガル理論入門』という本について
本:ポリヴェーガル理論入門1 2つの迷走神経
から10回にわたって詳しく解説したことがありました。

人間の脳神経の一つ、迷走神経(Vagal nerve)は、
一般的には最も重要な副交感神経の一つとされていますが、
その役割は自律神経のブレーキの様なもので、
身体をリラックスさせるための神経と思われています。

ところが、迷走神経には究極のストレスがかかった時には
身体をシャットダウンさせ身を守るシステムという一面がある、
というのがポリヴェーガル理論の第一基本です。

さらには、そうした自律神経に関わる神経というのは
迷走神経の中の20%であって、
実は、残りの80%は内臓の感覚を逐一脳に届けている
感覚神経をも含んでいます。

こうした迷走神経の多彩な働きをStephen W. Poges博士は、
多重(poli)迷走神経(vagal)理論と呼びました。

この迷走神経を中心とした自律神経と内臓感覚神経による
双方向の情報伝達は、こころとからだをつなぐハイウェイ
のようなもので、さらに脳幹部で表情筋とも関連しています。

私たちは表情やアイコンタクトを用いて「こころ」を相手に伝えます。
相手の表情が穏やかならこちらも穏やかな感覚が生まれますし、
相手に怒りの表情が見えれば、
身体はそれなりの対応モードになります。
それは人が社会生活を行う上で重要なシステムです。

ポリヴェーガル理論はこうしてこころとからだと社会をつなぐ、
社会神経系理論へと概念を拡大してきました。

上記の研究は、まさにこの理論を裏付ける様な
結果ではないでしょうか?

「こころ」と「からだ」と「社会」
これらをつなぐキーワードの一つが迷走神経ではないかと
僕は思います。
(そして、もう一つのキーワードは
「島皮質」ではないかと思っているのですが、
それについては、いずれお話できればと思います。)

以前にちらっとだけ紹介したことがあるのですが、
『「ポリヴェーガル理論」を読む』という本がありまして、
いずれレヴューを・・・と書いたのですが、
それから1年がたってしまいました。

その話もしたいところなのですが、
最近、ネットを見ているといろんな情報が入ってきて、
ちょっとオーバーフローエラー気味。

まあ、ぼちぼちと書いていきたいと思います。