漢方治療について

当院の漢方治療について

耳鼻咽喉科領域の病気を中心に、漢方治療の方がよい場合、漢方治療をご希望の場合などにエキス製剤を用いた治療を行います。(健康保険適応) 以下、このコーナーでは、基本的な漢方の知識と(詳しくお知りになりたい方は成書をご覧ください)、私が日常診療で使用しているものを示したいと思います。漢方薬をどう使うかは医師の考え次第ですが、うまく使って患者さんの治療に生かしたいものです。

ご注意: ここでは一般的な話としてお話いたします。各患者さんに処方される場合には、その方の症状・体型・気質や診察の時の印象などによって最終的に決定されま す。処方される先生方は各自の責任で処方・投薬をお願いいたします。一般の方で試してみたいと思われる場合は、各人の責任のもとで主治医または薬剤師の先 生とご相談の上、服薬してください。

漢方基礎知識

【漢方薬と民間薬】 まずは漢方薬とは何ぞや?という所から始めましょう。草木などを取ってきて薬にする(生薬)という点で漢方薬と民間薬は似たところがありますが、一般的に 民間薬は一種類の生薬を使用するのに対して、漢方薬は複数のものを組み合わせて使用します。その組み合わせ方と分量は、いくつかの古典を基に基本的には決 まります。 たとえば、桔梗という花がありますが、この植物の根は炎症を鎮める作用があります。

これを風邪気味の時に煎じて飲んだりうがいとして用いれば民間薬となり ますが、この桔梗の根に生姜を一定の割合で合わせて飲めば「桔梗湯」という一つの漢方薬となります。
同様に風邪気味の時に葛(くず)湯(植物のくずの根か ら精製したもの)を飲んで身体を温めるのは民間薬としての使い方ですが、葛の根を乾燥させて角切りにしたもの(葛根)に、他にショウガ(生姜)、シナモン の木の枝(桂枝)、乾燥ナツメ(大棗)、シャクヤクという植物の根(芍薬)、カンゾウ・マオウという植物の乾燥させたもの(甘草、麻黄)などを一定の比率 で合わせて、煮出したエキスを飲めば漢方薬「葛根湯(かっこんとう)」としての使い方となります。
その「葛根湯」という処方は、古典中の古典「傷寒論」という本の中にどういう時に使うか、どれだけの量を使うか、など詳しく書かれています。

民間薬は一般に昔から言い伝えられてきたもので、中には眉唾ものもありますが、確かな効能を持つものもあります。ただ、「こういう症状にはこれを飲む」と いう1対1対応であるのに対して、漢方薬は、「こういう体格・体質の人が」「こういう症状(複数の症状の場合もある)」で「(場合によっては)こういう症 状はない」、そして、症状だけでなく体に現れた徴候もチェックして、最終的に「これこれの薬を飲みなさい」というように決まっています。この、色々な条件 を漢方では「証(しょう)」と呼んでいます。

【隋証治療】 「証」というと難しく聞こえますが、要するに、体格・体質と自覚症状と診察上の徴候との組み合わせと考えられます。

たとえば、先に述べた「葛根湯の証」 は、古典「傷寒論」の中では、「悪寒、発熱、頭痛がして、首筋や背中がこわばるもの」に葛根湯がよいと書いてあります。こういう症状は風邪の初期にでやす いですので、一般に「風邪に葛根湯」という風に言われるわけです。
だからといって風邪の人すべてに葛根湯を飲んでもらっても、効く人もいれば効かない人もいますし、逆に悪化する場合もあります。

一般的に葛根湯は肉体労働 者のような体格のややがっちりした人向けで、先にありましたように汗をかいていないタイプの背筋のこわばった人によく効きます。これに対して、細面のやや 神経質そうなひょろっとした感じの人が風邪をひいて汗をかいて悪寒がするような場合には、「桂枝湯(けいしとう)」や場合によって「柴胡桂枝湯(さいこけ いしとう)」という薬がよかったりします。

こういう見立てをして効く薬を合わせることを隋証治療と呼びます。 風邪といっても現れる症状は人によってちがいます。
また、同じ人でも時期によって変わってきます。先ほどの風邪ですが、風邪の初期には「葛根湯」や「桂枝 湯」が有効かもしれませんが、すこし時間がたって黄色い鼻汁が出ている時などは、漢方薬よりも抗生物質の方が有効だと思います。
さらに、咳が長引いている ような時には「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」がいい時もあります。また、風邪で体力を消耗した場合などは「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」がよい 場合もあります。 このように一概に「風邪」といっても飲む人によっても、飲む時期によっても変わります。

【漢方医学と中医学】 もともとは同じ所から始まった両者でしたが、日本国内で独自の学問体系・治療体系に発展したものが漢方(古方派)です。漢方では腹診(ふくしん)と呼ばれるお腹を触って診断する方法があり、主に古典の処方を重要視する傾向があります。 これに対して、中国では陰陽五行説を背景に独自の中医学が発展しました。中医学は構成成分である生薬一つ一つの意味を考えて、合わせたり取り除いたりして 処方を決めて行きます。一般に中医学の方が組み合わせる生薬の種類が多い傾向にあります。理論的である反面、やや理屈に走る傾向があります。 両者をひっくるめて広義の漢方あるいは東洋医学と呼ぶ場合もあります。

【漢方処方の注意点】 漢方処方の際にいくつか押さえておく点があります。

(1) 胃腸の弱い人:麻黄(まおう)、地黄(じおう)、大黄(だいおう)を含んだ処方は注意。食欲不振、腹痛など引き起こす可能性あり。
(2) 血圧の高い人:麻黄、人参を含んだ処方は注意。
(3) 心筋梗塞・狭心症の既往のある人:麻黄を含む処方は原則禁忌。麻黄には交感神経刺激作用のあるエフェドリンが含まれているためです。
(4) 不整脈のある人:附子(ぶし)を含む処方は注意。附子はトリカブトの根を減毒処理したもの。アコニチン系アルカロイド。
(5) 浮腫のある人、腎機能低下、利尿剤をのんでいる人:甘草(かんぞう)を含む処方に注意。甘草を含む処方はたくさんあります。もちろんそれら全てで注意は要 しますが、特に量の多いものや、2つ以上の処方を合わせてのむ場合には注意が必要です。グリチルリチンが主成分。
(6) 桂枝・桂皮を含む処方はアレルギーに注意。シナモンが苦手な人には不向き。
(7) 妊婦:妊娠初期の絶対過敏期(4週~11週)はふつうの薬剤と同じくできるだけ服用しなくてもすめば控える方がよいと思います。妊娠中でも安心して服用で きる処方として当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)があり、これでのりきる場合もあります。絶対過敏期を越えた場合に、どうしても必要な場合には婦人科の 先生と相談の上で処方する場合があります。

耳鼻咽喉科頻用処方

私が比較的よく処方するものを示します。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう) くしゃみ・鼻水・鼻づまりを目標にアレルギー性鼻炎の第一選択薬。効く人には効きます。効く時には早いと服用後20~30分で効いてくるのがわかります。

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう) 小青竜湯が効かない場合はこっち。逆もありえる。どちらかといえば老人に効く人が多い。

葛根湯(かっこんとう) 風邪のごく初期によく効く。やや身体のがっちりした人の方がききやすい。 抗ウイルス作用が確認されている。 首筋~背中にかけてのこりを目標に使用することもある。

葛根湯加川辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい) 上述の葛根湯に川と辛夷というものを加えると鼻の処方になる。急性鼻炎によいが、鼻づまりの強いアレルギー性鼻炎でも以外に効果的な時がある。子どもは葛根湯の方が甘いのでそれで経過をみることもあります。

辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 副鼻腔炎の処方。副鼻腔炎には本処方か、上の葛根湯加川?辛夷か、下の荊芥連翹湯が有効なことが多い。

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう) 頸から上の炎症性病変での第一選択の処方と言われています。

小柴胡湯(しょうさいことう) 風邪でも数日して胸苦しい感じや、口の中が苦い、熱が上がったり下がったりを繰り返すという時に用います。肝機能障害でもよく使われる処方です。ごく稀で すが、副作用にきつい肺炎(間質性肺炎)が起こることがあり注意が必要(黄芩という生薬を使った薬はどれでも注意。高齢の人、肝硬変の人で出やすい。)体 格によって柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)を選ぶ場合もあります。構成生薬の柴胡(さいこ)の中には柴胡サポニンという物質が あり、これがステロイド様の抗炎症作用として働くので長引く炎症に有効とされます。私は、乳児の反復する中耳炎ではこの処方か十全大補湯を用いています。うまく飲める患児は中 耳炎の治まり方が早いように思います。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 咽喉頭異物感に第一選択の処方です。のどの炎症を伴っている場合には上の小柴胡湯を合わせた合剤「柴朴湯(さいぼくとう)」を選択します。のどにつかえた「気」をめぐらせるといいます。

五苓散(ごれいさん) 身体にたまった余分な水分をとる作用があるといわれています。滲出性中耳炎ではこれに上の小柴胡湯を合わせた合剤「柴苓湯(さいれいとう)」を使う場合があります。

麦門冬湯(ばくもんどうとう) のどを潤す作用があるといわれ、口腔の乾燥感に用います。また、長引く咳にも有効で、コデイン系薬剤の無効例にも時に有効な場合があります。

加味帰脾湯(かみきひとう) もともと不眠症によく用いられていた処方ですが、なぜか耳管開放症に用います。どんな人にでも効くわけではありませんが、他に効果的な薬剤がないためまずは試してみるべき薬です。

加味逍遥散(かみしょうようさん) 漢方のトランキライザーとの異名をもつ処方。いろいろ症状が揺れ動く(逍遥とは揺れ動くという意味)人、すなわち、あっちが調子悪い、こっちが調子悪いといろいろ愁訴が多い人に有効と言われます。

漢方に関するよくある質問

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漢方に関するよくある質問

参考図書

  • 漢方薬と民間薬:西山英雄著(創元社)
  • 漢方診療のレッスン:花輪壽彦著(金原出版 SCOMスコム同時代医学双書)
  • 漢方処方 応用の実際:山田光胤著(南山堂)
  • 症例から学ぶ 和漢診療学:寺澤捷年著(医学書院)
  • 漢方治療のABC:日本医師会編(医学書院)
  • 鉄則モダン・カンポウ (新興医学出版社)