耳鳴りの原因・増悪因子

1.内耳

基本的には耳鳴りの発生源は内耳の場合が多いと考えられます。
※ただし、まれに聴こえの神経(聴神経)の場合もあります。

耳鳴りは、聴こえの細胞(内耳の中にある有毛細胞)が弱ってしまった、あるいは死んでしまった場合に、電気信号が脳に送られて、耳鳴りになると考えられます。
つまり、早期の耳鳴りの多くは聴力障害が生じた結果として耳鳴りが生じているのです。

ですから、耳鳴り治療のまず第一は「内耳を良くする」ことです。

内耳が障害を受けた場合、治療が時間的に早ければ早いほど効果的です。
急に聴力が落ちた時に生じる耳鳴りには、まずは全力で聴力改善の治療を行うことです。
一般的には聴力が回復すれば耳鳴りは軽快もしくは消失します。

ですので、明らかな耳鳴りがしてきた時には数日の間に最寄りの耳鼻咽喉科を受診して、まずは聴力検査をしてもらいましょう。

※これは耳鳴の「末梢発生説」による考え方です。
これに対して、「中枢発生説」という考え方もあります。
腕を切断した人などが、ないはずの腕を感じたり、痛みなども感じる場合がありま
す。これとよく似たことが聴覚にも起こっていると言う考え方です。

聴力が低下した結果、脳へ伝わる情報が減ったために脳が少しでも音を捕らえようと感度を上げることで、耳鳴りが生じるという考え方です。
慢性の耳鳴りの多くはこの脳の感受性が増大したことによると考えられます。これに対しては、あとに述べる<3>大脳皮質下と類似の考え方で対処します。

もちろん、耳鳴り・難聴以外にも明らかに中枢疾患が疑われる場合は、原因検索を優先しなければいけません。「中枢疾患(頭の病気)を疑わせる症状」をクリックしてください。

2.外耳・中耳・耳管

先に耳鳴りの発生源の多くは内耳であるとお話しました。しかし、本来の耳鳴りの大きさというのは色々な研究からそれほど大きなものではないと考えられています。
それでも実際には患者さんにとって人によっては耳鳴りはすごく苦痛で大きく感じられます。
それは本来の耳鳴りを増悪させている因子があるからです。
耳鳴りを増悪させている因子の一つとして、外耳や中耳・耳管の影響が考えられます。

外耳: 耳垢塞栓。この場合は耳垢を除去するだけで、耳鳴りは改善します。
中耳: 滲出性中耳炎・耳管狭窄症。これらは多くの場合、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎がベースにあります。鼻の治療を合わせて行います。

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3.大脳皮質下

聴力が落ちてくると耳鳴りがすると先に述べました。

実際に歳をとってくると耳鳴りを訴える患者さんも多くなります。しかし、お年を召された方がすべて耳鳴りを言われるわけではありません。あるいは、「耳鳴りしますか?」と問えば、「してますよ」と答えられる方はたくさんいらっしゃいます。
そうした方の、すべてが耳鳴りに困っていられるわけではありません。

同じ程度の聴力の人で、かたや耳鳴りが苦痛で何もできない、かたや普通の生活をされている。
この違いはどこにあるのでしょうか?

その違いは、脳にあります。
脳の感受性に違いがあるわけです。
脳での耳鳴りに対する感度が上がっている(脳が興奮している)ことが原因なのです。

ここで、「音はどのようにして聴こえるか」について脳の生理学を中心にみてみましょう。
音は空気の振動です。この振動は、外耳道⇒鼓膜⇒中耳(耳小骨)と伝わって、最後に内耳に伝わります。内耳で音は聴こえの細胞(内有毛細胞)によって電気信号に変換され、聴神経を伝わって脳に入っていきます。
電気信号に変換された情報は、脳の「皮質下」と呼ばれるところにまでやってきます。
そして、皮質下から大脳皮質(聴覚野)に信号が到達して、我々は、はじめて「音」を認識するわけです。

ただし、「皮質下」にまでやってきた音情報は、実はここで選別が行われているのです。
耳から入ってきた音すべてが大脳皮質に上がってきているわけではないのです。
たとえば、何かに夢中になっていたりして、誰かに声をかけられても気がつかなかったというような経験は誰にでもあると思います。これは声が聴こえなかったのではなく、聴いていたけども大脳皮質にまで上がってこなかったので、認識できなかったわけです。

「皮質下」での音の選別-大脳皮質に情報を上げるか上げないか-は、脳がその音をどれだけ重要視しているかに基づいています。脳が「重要度が高い」と感じる音は、どんどん大脳皮質に情報を上げるため、音として聞こえてきます。逆に脳が「重要度が低い」と感じている音は大脳皮質に上がらずに却下されてしまうので音として聞こえてきません。

「重要度が高い」とは、どういうことでしょうか?

それは、一つには生命が危険にさらされるかということです。身体に悪影響を起こすのではないかと思われる場合です。生命の危険を感じるような音は重要度が高く、脳は極力音を聞き漏らさないようにアンテナをはります。脳の方で「この音は気にしなくてもいい」と理解すると、大脳皮質に情報を上げるのを自動的に減らします。

「この耳鳴りは何かの前触れだろうか?」「脳に何かできているのでは?」「耳鳴りがひどくなると、将来聞こえなくなるのではないか?」等、こうした不安を持ったままでいますと、耳鳴りは大きくなってきます。耳鳴りが「得体のしれないもの」だと感じていると大きくなってきます。

ですので、耳鳴りが気になる場合は、一通りの色々な検査を行い、「大丈夫だ」ということを確認しておくことも大切です。

「重要度」を決めるもう一つの要素は「興味」です。

大勢のパーティ会場などで、人が会話しているときに、自分が興味をもっている話などは、少し離れた場所で話をしていても耳に飛び込んでくることがあります。「カクテルパーティ効果」と呼ばれる現象です。
このように脳は、興味があると思われる対象には、少しの情報でも逃さないようにと感度を上げてきます。しかし、興味は必ずしも良いことだけではありません。嫌なことにでも、注意が集中したら、興味があると脳は考えてしましいます。

「今日の耳鳴りの大きさはどうかな?」「今日は耳鳴りがしているだろうか?」と言った「耳鳴り探し」はやめましょう。耳鳴りを探すことで、脳は「耳鳴りに興味がある」と理解してしまいます。するとさらに耳鳴りが小さい時でもご主人様のために耳鳴りをちゃんと聴かせてくれようとすることになります。

※また、「耳鳴りを気にしないようにしよう!」と頑張るのも実はいけません。「気にしないぞ、気にしないぞ」と思っていることは、イコール「気にしている」ことになるからです。

重要度を決めるもう一つの要素は「感情」です。

そして、感情は音に対する快・不快とも関係してきます。
たとえば、自分のかわいい子どもや孫がピアノの練習をしているとしましょう。ほほえましい姿であり、弾いている音が多少下手でもそんなに気になりません。しかし、これが、普段から仲の良くないお隣さんの子どもが練習しているのが漏れきこえてきたらどうでしょう?すごく気になってイライラすると思います。もちろん、これはたとえ話ですが、音自体にはそれほど違いがなくても、付加された感情によってとらえ方は大きく変わってくるということを理解していただきたいと思います。

耳鳴りを敵視するのはやめましょう。「嫌だ」と思えば思うほど、脳は嫌な耳鳴りのちょっとした変化でも逃さないようにと、逐一モニターして大脳皮質に情報を送ろうとするからです。

苦痛のネットワーク

耳鳴りが治療しにくい一つの理由が、苦痛のネットワークにあります。

音を認識するかしないかを選別するのは「皮質下」の役割とお話しました。
この皮質下と密接な関連があるのが、「大脳辺縁系」と呼ばれる部分と「自律神経系」です。
大脳辺縁系は情動(感情や快・不快)を感じる脳であり、人間の最も原始的な脳の部分です。一方の自律神経系は、身体の色々な臓器のコントロールを行っています。
ストレスが多い場合にはこの大脳辺縁系と自律神経系(特に交感神経)が活性化されてきます。

このストレスと関連のある脳と耳鳴りを感じる皮質下が、神経的に強くネットワークを作るとやっかいなことになります。耳鳴り自体がストレスのもとになり、気分は落ち込み、交感神経が興奮した状態が続きます。これがまた新たな苦痛を生み出します。いわば苦痛のネットワークと呼ばれるものです。
「耳鳴りで眠れない」と言われる人は、実際には交感神経が興奮して眠れないわけです。

耳鳴りの治療をする際には、この苦痛のネットワークをうまく解きほぐしていく必要があります。

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4.身体の環境因子

耳鳴りを増悪させる要因は他にもあります。

動脈硬化

耳鳴りがしてきたので、耳鼻咽喉科に行ったら「歳ですね」と言われた、あるいは、「老年性難聴です」と言われた人も多いのではないかと思います。
確かに中高年の耳鳴り、しかも両側性の「ジー」や「キーン」は老年性難聴に伴う耳鳴りと言われることが多いと思います。

こうした耳鳴りの人の聴力は、高音部が徐々にきこえなくなってきています。
高音部の聴こえの細胞(有毛細胞)は1秒間に振動する回数が多いため疲労しやすく、弱りやすいからだと思われます。しかし、高齢者でも聴力の悪くない人もいます。もちろん遺伝的な要素もあると思われますが、疲労した細胞が回復するかどうかは、供給される血液の量によると思われます。

ところが、年齢を重ねてくると動脈硬化がすすみ、血管が細くなり血液がうまく流れなくなってきます。このことが老年性難聴を引き起こす原因ではないかと思います。

つまり、老年性難聴の耳鳴りは動脈硬化で血流が減ったことで酸素が行き渡らず、内耳の細胞が苦しんでいる叫びなのかもしれません。
もし、動脈硬化を改善することができれば、耳鳴りが小さくなるのではないかと考えます。高血圧・糖尿病・高脂血症・高尿酸血症・肥満など、動脈硬化をきたしやすい因子をお持ちの方は生活習慣を見直す必要があります。

最近、当科では、早い時期に動脈硬化の進行を止めれば、それ以上老年性難聴やひいては付随する耳鳴りが増悪するのが防げるのではないかと考え、動脈硬化の状態をできるだけ早期に、詳細に把握してもらうために、いくつかの検査を導入しました。

血管年齢検査:

指先の脈波の状態から血管の状態を類推する検査。
数分で結果がわかります。
ご希望の方は来院時にスタッフにお伝えください。

血管内皮機能検査(Endo-PAT検査):

腕を5分間縛り、開放した時の血管の戻り具合をみて、血管の一番内側の細胞の機能(血管内皮機能)を調べます。
動脈硬化は最初にこの血管内皮機能が障害されると言われており、動脈硬化を食い止めるにはまずはこの血管内皮機能を改善させることが大切です。
20分ほどの検査です。(要予約(※))
 ※電話での予約はしていません。ご希望の方は来院時にスタッフにお伝えください。

うつ状態

うつ状態と耳鳴りについては、かなり昔よりその関係は言われていますが、これは卵が先かニワトリが先かと同じ様なところがあります。つまり、耳鳴りがするからうつ状態になるのか、うつ状態にあるので耳鳴りが気になるのか。そのどちらの可能性もあると思います。
しかし、逆に言えば、うつ状態をよくすれば耳鳴りが改善する人はたくさんいらっしゃいますし、実際に抗うつ剤が耳鳴りの治療としてよく使われる場合もあります。

軽度のうつ状態の場合には、抗不安剤や軽い抗うつ作用をもった薬剤を耳鼻咽喉科でも処方する場合がありますが、高度の睡眠障害や、社会的生活ができなくなってきている場合には専門家の治療をあわせて受けていく必要があると考えます。

貧血

貧血も、耳鳴りを増悪させる因子の一つではないかと考えています。

糖尿病

糖尿病は、動脈硬化を引き起こす原因の一つでもありますが、糖尿病自体が聴力低下を引き起こす原因にもなります。実際に糖尿病をうまくコントロールするとそれだけでも聴力が回復するのは日常よく経験するところです。

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