めまいの検査(詳細)

理学的所見に関する検査

脳神経(12神経)が傷害された時の症状

  • I:嗅神経・・・嗅覚異常
  • II:視神経・・・視覚異常
  • III:動眼神経・・・眼球を動かす神経。障害されるとものが二重に見える。
  • IV:滑車神経・・・眼球を動かす神経。
  • V:三叉神経・・・顔の知覚の神経。顔のしびれ、特に口の周りのしびれには注意。
  • VI:外転神経・・・眼球を動かす神経。
  • VII:顔面神経・・・顔の表情をつくる神経。顔面神経麻痺。味覚異常。舌のしびれ。
  • VIII:前庭聴覚神経・・・めまい・難聴。後述の眼球運動の異常を検査します。
  • IX:舌咽神経・・・飲み込み(嚥下)の障害。ろれつが回らない。
  • X:迷走神経・・・声帯を動かす部分(反回神経)が障害されると声がかすれる。
  • XI:副神経・・・胸鎖乳突筋の萎縮、腕が上に上がりにくい。
  • XII:舌下神経・・・ろれつが回らない。舌を前につきだした時に曲がってみえる。

▲上に戻る

眼振・眼球運動に関する検査

小脳症状

手や足をスムーズに動かすことができなくなります。

  • 指鼻試験: 指先を自分の鼻と検者(もしくは自分)の指との間を交互に行ったり来たり往復がスムーズにできなくなります。
  • 拮抗運動反復不能症(adiadokokinesis):手のひらを表向けたり裏向けたりを繰り返ししに障害がでます。

自発眼振検査

まっすぐ前を見ている時の眼振の状態を観察します。ただ、眼振は一点を注視している時より、ぼんやり注視しない状態の方がうまく観察できます。
このため、フレンツェル眼鏡という度の強い眼鏡を通して観察を行います。最近ではより感度が高いので赤外線カメラを用いて暗所下での眼球運動を観察することが増えてきています。

注視眼振検査

注視しない方が眼振は観察しやすいのですが、左右(あるいは上下)を注視すると隠れていた眼振を見つけることができる場合があります。手元にフレンツェル眼鏡や赤外線カメラがない場合でも注視眼振はみることができますので、めまいの場合には必ずみておくようにします。

頭振後眼振検査

左右方向(時に上下も?)に頭を繰り返し振ると、三半規管での情報が脳に蓄積され左右差が増幅されます。自発眼振がみられない場合でも頭振後眼振検査で小さな眼振を検出できる場合があります。

やはりここでも、基本原則は「末梢性めまいでは水平回旋混合性眼振、中枢性では上下方向の眼振」です。

Head Impulse Test(HIT)

まだあまり一般的にはなじみのない検査名ですが、最近めまいを専門にする医師では注目されています。この検査は目を正面に固定させておいた上で、頭を左右どちらかに急速に振り、止めた時の眼球の動きをみることで左右の三半規管の障害を検知することができます。

以前は三半規管の状態を左右別々に評価するには温度刺激検査(カロリック検査)くらいしかありませんでした。しかもそのカロリック検査はめまいを誘発させて行う検査だったので気の重い検査でした。これに対して、HITは簡単にできるので有用です。

目で見るだけ(定性的)でもある程度はわかりますが、最近、眼球の動きをビデオで計測しながら定量的に行う方法が研究・開発されており、近い将来めまい診療で積極的に行われるようになると考えています。

(現在のところ当科では行っていません)

 頭位眼振検査

仰向け(臥位)になると座っていた時には検出されなかった眼振が出現する場合があります。
さらに、臥位から頭を右や左に曲げたり(右・左下頭位)、身体ごと右・左になったとき(右・左側臥位)の眼振出現の状態を検査します。

一般的な内耳が障害された時には、水平回旋混合性の眼振が同じ方向にみられます。

良性発作性頭位めまい症の水平半規管型の場合は、臥位で右を向いた時と左を向いた時で眼振の方向が逆転します。

眼振の方向(急速相の方向)が、下(つまり右下頭位をとった場合に右向き、左下頭位で左向き)の場合を「方向交代性下向き眼振」と呼びます。この眼振のほとんどは、水平半規管型の良性発作性頭位めまい症(半規管結石症)で、眼振の強い側が患側です。ただし、まれですが中枢疾患の場合があるといわれますので、ちょっとひかかる場合は中枢疾患の除外が必要です。

眼振の方向が上を向く場合(つまり右下頭位で左向き、左下頭位で右向き)は、「方向交代性上向き眼振」と呼びます。この眼振の多くは、水平半規管型の良性発作性頭位めまい症(主にクプロ結石型)で、眼振の弱い側が患側です。ただし、時に中枢疾患の場合があるといわれますので、中枢疾患の除外を常に考えておく必要があります。

頭位変換眼振検査

座った状態(坐位)から寝転んだ状態(臥位)へ体位を変換させた時、あるいはその逆の動きをした時の眼振の出現状態を検査します。

坐位⇒右下頭位での頭位変換時に、(患者さんに対して)反時計まわりの眼振が、右下頭位⇒坐位で回旋方向が逆転して時計回りの眼振が見られた場合、右の後半規管型の良性発作性頭位めまい症が考えられます。(左下頭位の場合は逆になります。)

指標追跡検査

動いているのものを追従する場合や、一点を見ていてほかに視線を移す場合などに眼球が動きます。この眼球の動きを制御するシステムは、身体のバランスをとるシステムとも密接に関連しています。このシステムがあるので、自分が動いていても視界に映るものがぶれずにみることができます。
このシステムを検査することで、主に中枢性の病気が隠れていないかを知ることができます。

こうした眼球の動きの異常は、MRIでも見つからないような病変がある場合にも検出できる場合があります。

指運動性眼振検査(OKN・OKP)

指運動後眼振検査(OKAN)

指標が目の前で次々と流れて行くのを目で追う検査。
流れる指標を次々とみていると、ちょうどめまいがするときに生じる眼振と類似した眼球の動きとなります。これを視運動性眼振と呼びます。

一定の速度で流れる指標を追従するのがOKNで、指標の流れる速度を徐々に速めていき、最高速度まで達したら、徐々に速度を下げて、その間の視運動性眼振をパターンで検出するのがOKPです。

視運動性眼振を続けていると、眼球の動きの影響が脳に蓄積されます。このため、指標追跡をやめてもしばらく眼振が持続する場合があります。このパターンを記録して検査に役立てたのがOKANです。

回転検査

生理的には眼振は、三半規管に加速度が加わった時に生じます。すなわち、急に回転した時や一定の速度で回転していて、急に止まった時などに眼振が現れます。
これを記録して分析するのが回転検査です。

温度刺激検査(カロリック検査)

耳に水やお湯(一般的には37±7℃)を入れたときに典型的な場合はめまいが起こります。これは、体温差の刺激が三半規管に届くと、水平半規管の中に対流が生じることによって三半規管の中のセンサーが働くものと考えられています(Barany説:今ではこれ以外のメカニズムもあるだろうと考えられています)。

わざとめまいを起こさせて反応をみる検査ですので、人によって多少しんどいこともあります。このため、最近はあまり行われない傾向にありますが、左右の三半規管を別々に評価できるという優れた点がありますので、どうしても必要な場合は受けるようにしてください。

▲上に戻る

姿勢制御に関する検査

平衡感覚は姿勢の制御と密接に関連があります。

直立検査

姿勢の制御には眼からの情報と三半規管・前庭からの情報、足の裏の感覚などが小脳に入り、その結果を踏まえて、からだ全身の筋肉でバランスをとっています。これらのどこかに異常がくればうまく立っていることができません。

両脚直立検査

単に両足で直立してもらい、うまく立っていられるかをみます。
眼を開けた状態と閉じた状態で比べます。
小脳に異常がある場合は眼を開けていても、ふらつきがあります(体幹失調)。

これに対して、内耳に障害がある場合は、開眼では普通に立っていられますが、閉眼ではふらつきが強くなり倒れてしまいます。三半規管からの情報の不足を視覚で補っているのが、閉眼で視覚情報が入らなくなると姿勢がうまく制御できなくなるためです(Romberg陽性)。

片脚直立検査

単に直立では異常がでにくい場合、片脚で田戸とすると異常が出やすくなります。

Mann直立検査

片脚検査では、正常の人でも中々うまくできない場合もあり、両脚と片脚の中間程度の負荷で検査を行うのがMann検査です。これは足をつぎ足(右前または左前でかかととつま先をくっつけて)で直立します。

歩行検査

直線の上を真っ直ぐ歩きます。
めまい時には歩こうとするとフラフラする場合と、左右どちらかに寄ってしまう場合があります。特に三半規管の障害の場合、

足踏み検査

三半規管に障害を来たした場合、急性期には弱った側の筋の緊張が弱くなると考えられます。このため、歩行時障害側に曲がっていく傾向がみられます。 これは、車のタイヤの片方がパンクした様なものです。ただ、少し慣れてくるとまっすぐ歩けるようになります。

これは、視覚や触覚といった三半規管以外の情報と小脳を中心にした代償システムが働いて慣れてくるためです。しかし、この時期に眼を閉じてその場で足踏みをしてもらうと、まだ悪い方の耳の側へ少しずつ回っていくのが見られるので検査に応用されます。 さらに時間がたちますと同じ眼を閉じて足踏みをしても、今度は良い方の耳の側に少し曲がるようになります。これは、パンクした車がそのままでは患側に曲がってしまうので運転技術で少し健側に寄せることでうまく運転できるようになるようなものです。

両手を前に出して、閉眼(できれば遮眼)で100歩(または50歩)その場で足踏みをしてもらいます。

重心動揺検査

両脚直立検査を定量的に計測することができます。開眼と閉眼で重心の動揺の差を測定したり、動いた軌跡の距離を測定したりします。

Schllong検査

臥位(寝ている状態)と立位での血圧や脈拍の変動を測定します。

一般には血圧や脈拍は、寝ていても立っていてもおおむね同じ程度に維持するように人間の身体はできています。ところが、自律神経に乱れがある場合、たった状態になると血圧がストンと下がってしまう場合があります。小学校の朝礼なので、気分が悪くなって倒れる子どもがいますが、起立性調節障害(起立性低血圧)です。

▲上に戻る

聴力に関する検査

めまいには内耳由来のものがたくさんあります。内耳由来の場合、三半規管(回転を感じる部分)や前庭(重力や加速度を感じる部分)の異常だけでなく、蝸牛すなわち聴力に異常が出ている場合が多数みられます。

これは自覚症状として難聴や耳鳴り、耳閉感がある場合もありますが、軽微なものでは検査してみないとわからない場合もあります。

あるいは、突発性難聴やメニエール病の場合、めまいがつらいのでどうしてもめまいに気をとられてしまいがちですが、時間がたつと難聴は治りにくくなる場合がありますので、ある程度早い段階で聴力検査もしておく必要があります。

標準純音聴力検査

ふつう耳鼻咽喉科でよく行われる聴力検査です。ヘッドホンから音を聞き応答をみる気導聴力検査と、直接音を頭蓋骨に伝え聴力を調べる骨導聴力検査を行います。この2つの聴力を測ることで、内耳由来の難聴か、中耳・外耳由来の難聴かがわかります。

簡易聴力検査

気導と骨導両方検査するのは煩雑ですので、どういった難聴かがわかれば、気導聴力だけを測定します。

また、次に述べる音叉を用いた聴力検査なども簡易聴力検査に入ります。

Weber検査

音叉を叩いて額(もしくは鼻の下)に置きます。音がどちらから聞こえるかを調べます。

一側性の難聴の場合、内耳由来の難聴の場合、音は健側から聞こえます。中耳・外耳由来の難聴の場合、音は患側から聞こえてきます。

グリセロールテスト

メニエール病を代表とする内リンパ水腫という病態(内リンパ液が過剰になり内耳圧が上昇した状態)をみつける検査。グリセロールという薬を服用する前と服用して3時間後の聴力を測定します。内リンパ水腫がある場合、聴力の改善がみられます。

▲上に戻る

その他の検査

前庭誘発筋電位Vestibular evoked myogenic potential(VEMP):

20年ほど前に開発された検査で比較的新しい検査ですが、現在急速に普及してきています。耳石器(前庭:球形嚢・卵形嚢)の機能を計測する検査です。

蝸電図検査

メニエール病を代表とする内リンパ水腫という病態(内リンパ液が過剰になり内耳圧が上昇した状態)をみつける検査。鼓膜の近くの外耳道に小さな電極を貼り、大きな音を聞かせて脳波のようなもの(内耳(蝸牛)から発せられる電気信号)を測定します。

核磁気共鳴画像法(頭部MRI)

磁場の変化で脳の中を検査します。内耳の奇形の有無、内耳から脳幹部に前庭神経が入るところ(小脳橋角部)の異常(聴神経腫瘍等)の有無、小脳・脳幹部、大脳などの異常(脳梗塞・脳出血、脳梗塞など)を検査します。

頸が悪い場合は頸部のMRIを撮影する場合もあります。

磁気共鳴血管画像(頭部MRA)

MRIの技術を利用して、脳の血管を描出して、脳の血管病変の有無を調べます。

コンピューター断層撮影(頭部CT・内耳高解像度CT)

MRIは高価でもあり、予約がとれにくい場合もあります。救急医療でめまいの診療を行う場合は、多くの病院で頭部CTを撮影します。これで大きな脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などがないかを調べます。ごく小さな聴神経腫瘍や、小さな脳梗塞、きわめて早期の梗塞などはうまく描出されない場合もあります。

内耳の高解像度CTは、内耳奇形・前庭水管拡大症など内耳の異常の有無や真珠腫性中耳炎などによる内耳の骨破壊等がないかを検査します。

椎骨レントゲン撮影

頸椎異常でもめまい感をきたすことがあり、時に頸部の精査が必要な場合もあります。頸部のMRIやCTを撮影する場合もあります。

心理検査

めまいは多くの場合不安を伴う症状です。何回もめまいが起こると不安状態が強くなります。あるいは、病気が長引くとうつ状態を引き起こす場合もあります。また、何らかの心理的要因がめまい感を起こさせている場合もあります。

このようなことから、場合によって心理検査を行う場合もあります。