本:健やかに老いるための時間老年学5 

生体時計と腹時計。

人間の場合、これにもう一つ重要な時計があると著者は言います。
それが先にちょこっと出てきました「こころの時計」です。

子どものころにゆっくり流れていた時間が、
老年期に入るとあっという間に過ぎ去って行く。
このような時間の感覚が「こころの時間」。

それがどこでどのように作られているかが、少しずつわかってきた。
数時間後や数分後を予知する砂時計型の時計が
「こころの時間」と深く関わっているらしいのです。

砂時計型の時計には
5秒や10秒といった「短い時間長の予測」と
30秒を超える時間を予測する「長い時間長の予測」があるそうです。
短い時間長の予測は、加齢の影響を受けにくい。
これが乱れてくるのはよほどのこと。

これに対して、長い時間長の予測は加齢とともに乱れてくる。
健康な老人では長くなり、脳梗塞・パーキンソン病では短くなるのだそうです。

著者は、もう一つの「こころの時間」の考え方に関して、
「島皮質(とうひしつ)」という神経細胞群の働きに注目しています。

島皮質は新しい脳と古い脳の境目に位置し、
両者と密接に連絡をとることで、
全身から情報を集め、そして加工し、全身に発信を行っている場所で、
”脳の中の脳(リトル・ブレイン)”とも呼ばれているそうです。

島皮質には他の脳にない特徴があります。
喜怒哀楽などの主体的体験をつかさどり表情として表現する。
五感から情報を受け、何かを感じ、記憶を想い起こして、こころをときめかせる。
心臓・血管・肺・胃腸など内臓の情報を受けとり、
直感的に評価して、それを全身に発信する。
戦うか逃げるか、あるいは死に真似をしてお茶を濁すか、
命を守るための行動を瞬時に判断し、指令を出す。

脳神経の細胞が、極端に専門化した分業システムであるのに対して、
島皮質は、脳組織から逃れて孤島に住み、
生命(いのち)のすべてを見守っているのだと。
それゆえ、著者は、島皮質こそこころの所在だろうと考えていらっしゃいます。

痛みや不快感に反応するのが、島皮質前方部、
心地よい気分を作り出すのが、島皮質後方部。

島皮質には左右の役割分担もあるそうです。
ある絵を見て痛みを想像する場合は右の島皮質が働き、
怖いことを思い出すのも右側。
これに対して、悲しかったことを思い出す場合は、
左の島皮質が働くのだそうです。

この左右の役割分担には、自律神経の働きが関与しているらしい。
交感神経が刺激される場合と、副交感神経が刺激される場合である。
交感神経が刺激された場合、情報は右の島皮質に送られる。
副交感神経からの連絡は、左の島皮質に届く。

島皮質には、心臓や血圧の働きを統括するという
重要な使命も持っているそうです。

心臓の働きを調節する仕組みにも、左右差がある。
右側の島皮質は交感神経の働きを高め、脈拍を増やし血圧を上げ、
左側の島皮質は副交感神経の働きを高め、脈拍を減らし血圧を下げるのだと。

左側に起こったにしろ右側に起こったにしろ、
島皮質が老化してくると、自律神経のバランスが崩れ、
いろいろな不整脈が出現するようになり、
一見何の異常もみられなかったのに、
ある日突然急死する様な場合もあるそうです。