僕が医者になるまで31

とりあえあず、臨床医になる。
これが当面の僕の目標になりました。
さて、では何科の医師になろうか?

僕は元々、どうやら熱しやすくて冷めやすい性格らしく、
自分では自覚していませんでしたが、
新しい分野の講義が始まったら、
なんとなくその分野のことで頭が一杯になってしまいます。

精神科に講義を受けたら精神科が面白そうだとおもうし、
小児科を学べば小児科もいいなと思えるし、
血液内科の授業を受けたら今度は血液内科もいいかもと。

そんな中、臨床講義で僕が特に印象的だったのが、
耳鼻咽喉科の教授、齋藤春雄先生の講義でした。
先生は、自分が留学していた時のことなどを授業中に交えながら、
前の方に座っている学生に、
質問をしながら講義を進めていきます。

時に質問に答えることができない学生が3,4人続いたら、
「Enyone?」
と言って、フロア全体を見渡して回答を求めたりました。
昔、マイケル・サンデル教授の
ハーバードでの講義が話題になりました。
ちょうどあんな感じですね。
その授業の進め方が斬新で、
何となくスタイリッシュで好きでした。

僕達は、齋藤先生のことを
”Enyone(エニワン)”とニックネームで
呼ぶようになりました。

まあ、そんなわけで、
エニワンの授業は欠かさず集中して聴きました。
エニワンは僕達がちょうど臨床医学を学ぶ頃に、
高知医大の教授として赴任してこられました。
ですので、スタッフも少なく、
一人でも多くの卒業生が
耳鼻咽喉科に医局に来て欲しい時期でした。
そのためもあってか、
教育に力をかけていらっしゃいました。

ポリクリ(臨床実習)でも積極的に学生を手術に入れました。
といっても、安全なところを引っ張って
執刀医の先生の視野をしっかり広げる役目程度ではありましたが。

僕はポリクリの時に下咽頭がんの患者さんの受け持ちになりました。
そこで、手術に入るわけですが、
下咽頭がんのその手術は、咽喉食摘と呼ばれ、
耳鼻咽喉科の手術の中でも1,2を争うダイナミックな手術でした。
当時の執刀医は、講師の岸本誠司先生。
岸本先生は、その後,
東京医科歯科大学の頭頸部外科の教授となられ、
現在、亀田総合病院頭頸部外科部長をされていて、
テレビにもよく出演されています。

そんな先生の手術ですので、すごいです。
といっても、ごく基本的な頸部の解剖を学んだ程度の
知識しか当時持っていなかったので、
どうすごいのかは、全く分かりませんでしたが、
テキパキと大きな手術をこなして行く姿は感動的でした。

耳鼻咽喉科というのは、
そういった下咽頭がんのような結構大きな手術もあれば、
耳のような顕微鏡を使った細かな手術もあり、
また、そうした外科的な手術だけでなく、
めまいのような内科的な治療もあり、
思ったよりも幅広いのが予想外だった、
これが僕のポリクリの時の僕の印象でした。