怖い絵展2

今回のこの『怖い絵展』、
目玉となる”レディ・ジェーン・グレイの処刑”以外にも、
鑑賞しがいのある絵が多く、
内容の濃い展覧会でした。

人間というのは、
時々あらがえない自然の力に翻弄される。
地震しかり、干ばつや洪水、台風しかり。
それはいつも死と隣り合わせであり、恐怖を感じる。

人間はそれをいつしか、”神”という形で畏怖することで、
何とか自然との関係を保ってきたのだと思います。
そして、そこから神話生まれる。
特に旧約聖書などには怒れる神々の話が度々出てきます。
これが、まず『怖い絵』が生まれる一つの契機。

今回でていた絵の中で印象的な一つ。
ハーバート・ジェイムズ・ドレイバーの
”オデュッセウスとセイレーン”
WS000059
頑強な船乗りが、半人半魚ではあるが美女の美声に
惑乱されている姿が描かれている。
恐らく急な海のシケなどで船が沈んだのを、
物語の形にしたのでしょう。
美しいけど怖い。

その他、死にまつわるものは、やはり怖い。
だけど、実は他にも怖いものがある。
それは人間。
欲望、嫉妬、怒り、あるいは、残虐性などなど。
そうしたものも画家は描こうとします。

今回の展覧会の絵の中では、
ウィリアム・ホガースの6組の絵が怖かった。
”娼婦一代記”
田舎から出てきた美しい娘モルを、
女衒が騙して娼婦にしてしまう。
最初は、ユダヤ人の娼婦となり羽振りがよかったが、
ある日逮捕され、強制労働に服させられる。
その後梅毒を患い、ついに息絶える。
モルの葬式が行われたが誰も悲しむ者はない。

このウィリアム・ホガースのもう一つの2枚組の絵、
”ビール街とジン横町”も怖かった。
ビール(当時高かった)を飲んで人生を謳歌する職人たちと、
粗悪なジンを飲んで健康を害し、廃人や犯罪者となる貧民が、
対照的に描かれています。

そして、怖いというより哀しかったのが、
ジョージ・フレディリック・ワッツの
”発見された溺死者”

貧困にあえぐ移民の若い女性は娼婦になるしか生きてゆけない。
さらに、妊娠してしまうと最悪である。
当時、堕胎は死刑。生んだとしても餓死。
追い詰められた彼女たちの多くはテムズ川に身をなげる。
当時、キリスト教では自殺は大罪で、
死んだら地獄に行くとされていた。
けれど、彼女たちは既に現実で地獄を生きていた。

ワッツの絵は、
女性がだらりと両手を水平に伸ばして横たわっているだけで、
顔を特にむごたらしく描いているわけでもないのだが、
(むしろきれいに描かれてある分、
その無力感というか悲しみが伝わってくる気がします。