聴覚過敏の治療3 抑肝散

さて、聴覚過敏の治療についてお話をすすめてきました。

・急性期であれば原疾患の治療をしっかり行う
・TRT療法に準じて加療を行う。
(おそらく補聴器を用いた加療も同様に或る程度有効であろうと思います。)
・耳小骨筋(あぶみ骨筋)反射異常であれば、心から笑い、幸せを感じる様に
心がけ、あぶみ骨筋をリラックスさせるとともに、音楽を聴いたり、
マーチのリズムで散歩を行うことが、有効かもしれない

といったことを書きました。
(リラックスは耳小骨筋反射による聴覚過敏だけでなく、他のタイプでも
もちろん大切なことだと思います。)

それ以外に、何か薬物治療でいいものはないか?

自験例ですが、以前聴覚過敏の方に、漢方薬の『抑肝散』を処方し、
有効であったことがありました。
ただし、これはまだ、一般的にはまったくコンセンサスを得ていません。

ただ、抑肝散の使用目標や、薬剤の性格を考えると、
あながち間違った方向性の薬ではないと考えています。

抑肝散は、柴胡、朮、茯苓、川キュウ、当帰、釣藤鈎、甘草という生薬で
構成される漢方薬です。

もともとは『保嬰撮要』と呼ばれる小児の治療書が出典の処方です。
身体が弱く、神経過敏で怒りやすく、すぐに疳をたてる子どもで、
けいれんをおこしたり、歯ぎしりをしたりするものに用いる処方
とされています。

そうした原典を踏まえて、チックなどの筋肉異常運動や抑鬱、不眠などに
用いられ、近年では小児よりもむしろ老人の認知症にも
盛んに用いられるようになっています。

また、耳鳴りや統合失調症における聴覚過敏などにも
有効な場合があると言われています。
抑肝散の「肝」は、西洋医学的な肝臓ではなく、
(肝臓のもつ解毒や血系貯蔵といった意味合いも含みますが)
精神作用や筋肉に関する病態をも含む概念です。

この「肝」が亢進すると、脳が興奮状態になり、怒りやすかったり、
抑鬱状態などの精神症状が現れやすくなるのと、
痙攣や筋肉の緊張が顕著になると言われています。

この「肝」の亢進を抑えるのが「抑肝散」です。

そう考えますと、抑肝散は、
耳小骨筋(あぶみ骨筋や鼓膜張筋)の緊張を和らげる作用や、
脳の異常興奮を抑える作用があると考えることができます。
実際に聴覚過敏に抑肝散が有効かどうかを確定するには、
これからもっと症例を積み重ねていく必要があります。

試してみたいと思われる方は、
主治医の医師と相談の上、自己責任でお願いいたします。