『BRAIN and NERVE 特集 芸術家と神経学』2 

昨日からの続きです。

ゴッホと耳に関する話が書けたらなぁ。
僕は昔読んだ論文で、
ゴッホは”メニエール病だった説”を信じてましたので、
その線で話を進めようかと情報を集めていたら、
岐阜大学の下畑先生がBRAIN and NERVEの特集で
もっと包括的で深い話を書かれているのを
見つけてしまったので、そちらを紹介することにしました。

詳しくはぜひ本雑誌を読んでみてください。
あとに少し触れますが、
他の芸術家・作家についての諸先生方の考察もとても面白いです。

さて、ゴッホの病跡学ですが、
メニエール病説以外にもたくさんの説がある様です。
・側頭葉てんかんとゲシュウィント症候群説
・統合失調症説
・アブサン中毒、アルコール依存症説
・ジギタリス中毒説
・急性ポルフィリン症説
その他、鉛中毒、双極性障害、神経梅毒などの説もある様です。

下畑先生の考察で、もう一つ興味深く読ませていただいたのが、
ゴッホを支えた医師についても言及されていることです。
ゴッホの周囲には彼の才能を支える何人かの医師がいて、
ゴッホ自体も信頼を寄せていて医師の肖像画も残っています。
あらためて医師と患者さんとの信頼関係が
大切であることを認識しました。

下畑先生は、ゴッホの絵画の本質とは、
病気に抗う力、レジリエンスではないかと書かれています。
今度ゴッホの絵を観ることがあったら、
そうした背景にも思いをはせて鑑賞したいと思います。



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先にも書きましたが、今回の『BRAIN and NERVE』では
他にも芸術家や作家が取り上げられています。

・ショスタコーヴィッチの右手麻痺
ショスタコーヴィッチは名前くらいは僕も聞いたことがありましたが、
どんな人かまったく知りませんでしたが、
有名な作曲家でネットで検索してみたら聴いたことありました。
今、その音楽を聴きながらこのブログを書いてます。

・マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』と記憶・時間の神経学の誕生
プルーストの『失われた時を求めて』は有名な小説ですが、
いつかは読んでみようかな、読めるといいな、
本当に読めるかな・・・くらいは考えています。
特に冒頭の「マドレーヌのひと切れを柔らかくするために
浸しておいた紅茶を一杯スプーンですくって口に運んだ。
(中略)そのとき突然、思い出が姿を現した。」
というところは有名です。
こうした嗅覚をもとにエピソード記憶がよみがえるのを
「プルースト効果」と呼ぶそうです。
それにしても、プルーストの主治医の一人が
神経学の有名な反射検査のバビンスキーだったとは知りませんでした。

・ベートーヴェンの病跡と芸術
ベートーヴェンが晩年難聴で苦しんでいたというのは
聞いたことがありましたが、耳硬化症だと思っていました。
消化器症状があったり、剖検の所見では肝硬変があったり、
聴覚系も聴神経の変性もあったりと、
他の病因の可能性もある様です。
その一つの説として鉛中毒もあるそうです。

・エゴン・シーレとジストニア
僕はエゴン・シーレという画家をまったく知りませんでした。
スペイン風邪で28歳で亡くなったそうで、
著者の先生も書かれていましたが、
長生きしていたらどんな画家になっていたのだろうかと。

・卓越した絵画能力を支える脳基盤
論文の最初の方には、
滋賀県にゆかりのある三橋節子の絵について書いてあります。
そのほか、人が「美しい」と感じるとき
脳神経的にはどんな変化が起こっているのか、
神経美学neuroaetheticsに関して、
先天性・後天性サヴァン症候群を例に考察されています。

こうした観点から芸術や文学をみてみるのも面白いですね。