雑誌『BRAIN and NERVE 特集 芸術家と神経学』1

以前このブログで、
『美術の窓』という雑誌の特集「耳にこだわる」について
お話したことがありました。
雑誌『美術の窓』:特集 耳にこだわる1
雑誌『美術の窓』:特集 耳にこだわる2 

この特集の中に
「ゴッホの切断された耳」についての話もあったのですが、
ゴッホについては別の機会にお話をしようと思っていました。

ご存じの人は多いと思いますが、
ゴッホはアルルでゴーギャンと共同生活を始めますが、
最終的に2ヶ月ほどで喧嘩別れをしてしまいます。

ゴーギャンが去った直後、ゴッホは自分の耳を削ぎ落し、
娼館で働く掃除担当の女性にその耳を持っていくという
奇抜な行動をおこします。
いわゆる「ゴッホの耳切り事件」です。

それ以降、ゴッホは病院に入院したりしながら
その後も創作活動を行っていくわけです。
特にゴッホは37歳でピストル自殺をするまでの
(一説には銃の誤動作という話もあるそうですが)
わずか4年間に世界的に評価の高い作品を制作しています。

ところで、「精神医学や心理学の知識をつかって
天才の個性や創造性を研究しようとする」ことを
病跡学と呼ぶそうです。
(日本病跡学会:Pathography 病跡学とは)

ゴッホの作品に何らかの病気が影響していたのではないか?
実は、僕がまだ研修医だったころ、
図書館で論文を探していたときに、
自分の求めていた論文の隣にゴッホに関する論文を
たまたま見つけたことがあり、興味深かったので覚えています。

たぶんこれだったのではないかと思います。
Vincent’s Violent Vertigo: An Analysis of the Original Diagnosis of Epilepsy vs. the Current Diagnosis of Meniere’s Disease
I. Kaufman Arenberg,L. Lynn Flieger Countryman ,Lawrence H. Bernstein &George E. Shambaugh”
>https://doi.org/10.3109/00016489109128048

Abstractはネットで読めます。
”The authors propose to correct the historical misimpression that Vincent van Gogh’s medical problems resulted from epilepsy. Rather, the authors propose his main medical problem was Meniere’s disease. The authors have reviewed the 796 personal letters written by van Gogh. The symptoms of his Vertigo attacks, their presentation and duration as described in these letters, taken as a whole, are consistent with the clinical picture of Meniere’s disease, not epilepsy. They point out that Prosper Meniere’s description of his syndrome was not well known at the time of van Gogh’s death, and was often misdiagnosed as epilepsy. During the last years of his life, van Gogh was labeled epileptic, although no rigid criteria for this diagnosis are evident. This diagnosis is still prevalent in the art history literature today. His symptoms included episodic vertigo and dizziness, physical imbalance, hearing symptoms, ear noises (tinnitus) as well as a presumed secondary psychological reaction to his physical symptomatology, van Gogh’s diagnosis of epilepsy is based on written diagnosis in his medical records in 1889 when he was interred (voluntarily) in St. Remy at an asylum for epileptics and lunatics.”
google翻訳:
著者らは、フィンセントファンゴッホの医学的問題がてんかんに起因するという歴史的な誤解を正すことを提案しています。むしろ、著者らは彼の主な医学的問題はメニエール病であったと提案している。著者は、ゴッホが書いた796通の個人的な手紙をレビューしました。彼のめまい発作の症状、これらの手紙に記載されている症状と持続時間は、全体として、てんかんではなくメニエール病の臨床像と一致しています。彼らは、プロスペル・メニエールの彼の症候群の説明は、ゴッホの死の時点ではよく知られておらず、てんかんと誤診されることが多かったと指摘しています。彼の人生の最後の数年間、ゴッホはてんかんと分類されましたが、この診断の厳密な基準は明らかではありません。この診断は、今日でも美術史の文献で広く見られます。彼の症状には、一時的なめまいとめまい、身体的不均衡、聴覚症状、耳の音(耳鼻咽喉科)、および彼の身体的症状に対する推定される二次的な心理的反応が含まれ、ヴァン・ゴッホのてんかんの診断は、1889年の彼の医療記録の書面による診断に基づいていますてんかんと狂人のための亡命でセントレミーに(自発的に)介入されました。

僕は結構何でも信じやすい方ですので、
「へぇ~、そうなんだ!ゴッホはメニエール病だったんだ!」
と、その後もずっとそう思っていました。

ところが、実際にゴッホがメニエール病だったと考える人は
少数派みたいな様です。
・・・「みたいな様です」と書いたのは、
実は年末に出版された雑誌でゴッホの病跡学について読んだからでした。

『BRAIN and NERVE vol.73 No.12 December 2021 特集 芸術家と神経学』


普段は脳神経学に関する専門的な雑誌のようですが、
12月号は芸術や芸術家・小説家などと関連する脳神経学の話について
脳神経科学が専門でない人にも読みやすい特集になっています。

ゴッホに関しては、
岐阜大学脳神経内科の下畑亨良先生が執筆されています。
ファン・ゴッホの病跡学と病気の絵画への影響

下畑先生は自身のブログでCOVID-19に関する論文を
非常にわかりやすくまとめてくださっていますので、
いつも参考にさせていただいています。

Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

いつもの様に情報を探しにブログを拝見しましたところ、
上の「芸術家と神経学」に寄稿されていることを知りました。
クリスマス企画「芸術家と神経学」(Brain Nerve誌)

冒頭にも書きましたが、「特集 耳にこだわる」に関連して、
ちょうどゴッホの話で何か書けないかなと思っていたところだったので
早速買って読んでみました。

長くなってきたので続きは明日。