腸内細菌と社会性3

前回・前々回のブログは、
腸内細菌が社会的行動にも影響を与えている可能性がある
という話でした。

最初に紹介したナゾロジーの記事の元になった論文には、
こうした腸内細菌がいなくなった状態に、
ある種の細菌(Enterococcus faecalis)を摂取させると
社会性が回復するということまで書かれてあり、
ナゾロジーの記事にもそのことも書いてあります。

ここのところを元論文で見てみますと、
アンピシリン(A)・バンコマイシン(V)・
ネオマイシン(N)・メトロニダゾール(M)という
4種類の抗生剤をいろいろな組み合わせ
(AVNM/VNM/AVM/AVN)で
マウスに投与したところ、
ほとんどは社会性が消失したのですが、
AVMの組み合わせのだけは社会性がある程度維持される
という結果が得られました。

AVNMとAVMを投与されたマウス群で、
便の中の腸内細菌の分析をしたところ、
1つの細菌群・・・Enterococcus属だけ違っていたそうです。
そこで、抗生剤で完全に腸内細菌をやっつけたマウスに
Enterococcus属に属する”E. faecalis”を投与したところ、
見事に社会性も回復し、
ストレスホルモンも増加しなかったのでした。

この論文では、”E.faecalisが抗生剤で腸内細菌がいなくなった
マウスの社会的活動を増加させることを明らかにしていますが、
他の細菌が同様のまたは相乗効果を持っている可能性を
排除するものではありません”とも書いてあり、
いくつかの腸内微生物叢のメンバーがその役割を
になっていると考えられます。

E.faecalisは腸管常在菌叢の一つで、普段は悪さをしません。
ただ、抵抗力が落ちてくると日和見感染症の病原体になり、
心内膜炎、尿路感染症、腹腔・骨盤内感染症などを
引き起こすそうです。

E.faecalisは医薬品だと乳酸菌製剤に含まれています(※)。
ビオフェルミンR(E.faecalis 129 BIO 3B-R)
エンテロノンR(E. faecalis BIO-4R)
レベニン(E. faecalis PCR)
ビオスリー(E. faecium)にも含まれています。
(各薬剤の添付文書にはE.faecalisとは書かれてなくて、
Streptococcus faecalisとなっているものが多いです。
これはどうも薬剤として承認された時がそれで承認されたため、
現在、分類が変わってもそのままになっているのかと思います。)

※参考文献:ビオフェルミンR・エンテロノンR・レベニンについては、
”耐性乳酸菌製剤に対する抗 MRSA 薬の薬剤感受性
―耐性乳酸菌製剤に含まれる Enterococcus faecalis は linezolid に耐性を示す” 日本化学療法学会雑誌 Vol. 67 No. 4 p.483

抗生剤を飲むとお腹を壊しやすい人では、
抗生剤と一緒にこうした乳酸菌製剤を摂ることで、
腸内細菌叢の撹乱を最小限に抑えることができる場合が多いです。
(このため上の乳酸菌製剤の中には抗生剤投与時などしか
 保険請求が認められていないものもあります)

交感神経の緊張に対して腸内細菌叢のバランスを整える:
最近では健康サイトでは当たり前のことかもしれませんが、
そのあたりの科学的な裏付けがもっと進んで、
さらには治療法としても確立されるといいですね。

腸内活動がしっかりすれば、
背側迷走神経は適度な状態が保たれ、
交感神経は適度に活性化にとどまり、
腹側迷走神経によって、みんなが安心・安全を感じて
社会とほどよく繋がって快適な生活がおくれます。

これは過敏性腸症候群のような腸疾患だけでなく、
耳鳴りや後鼻漏、咽喉頭異常感症などでも
自律神経の不調という点では同じなのではないかと思います。
耳鼻咽喉科領域でも腸内細菌叢に留意する
そんな時代がきているのではないかと思います。