腸内細菌と社会性2 

昨日からの続きです。
腸内細菌がいなくなると、ストレスホルモンが増加して、
社交性が失われる、という記事を紹介しました。

この記事にはちゃんと参考文献と、
さらにその記事が取り扱った元論文も示してあります。

参考文献:Lifescienceというこれも科学系Webサイトで、
Gut bacteria may ‘talk’ to the brain, mouse study suggests
(腸内細菌は脳に「話す」かもしれない、
 とマウス研究は示唆している)

という記事です。

この記事の元論文は2021年6月30日のnatureに発表された研究です:
Microbiota regulate social behaviour via stress response neurons in the brain(マイクロバイオータは、脳内のストレス応答ニューロンを介して社会的行動を調節します)
こちらはabstract以外は有料です。

僕もnatureの記事を買って読んでみました。
(と言ってもgoogleやmicrosoft edgeの翻訳機能頼みですが)
・・・というか、正確に言うと読んでみようとしました。
データもすごく多いし、グラフの見方も難しく、
あまり理解することができませんでした。

それに比べるとLifescienceの参考文献は
比較的よみやすかったのですが、
今回は最初に紹介したナゾロジーの紹介記事だけでも
十分内容が理解できると思います。

さて、腸内細菌がなくなると、なぜ社交性が失われるのか?
それは、ストレスホルモンが過剰になるためとのことでしたが、
ではなぜストレスホルモンが過剰になるのでしょうか?

近年、腸と脳は会話をしながら身体の調子を維持しており、
これを脳腸相関と呼んでいます。

そして最近はその脳腸相関に腸内細菌叢も絡んできて、
脳-腸-微生物叢相関(軸)(The microbiota-gut-brain axis)と
呼ばれることもあります。

ところで、今回の記事のポイントは、
一つは「腸内細菌」ですが、もう一つは「社会性」です。

社会性と言えば、ポリヴェーガル理論です。
社会(周囲の環境を含む)に対して、
「安心」「安全」を感じている場合には腹側迷走神経複合体が働き、
社会とのつながりを深めようとします。
これに対して、「危険」を感じた場合は交感神経が働き、
闘争/逃走反応で切り抜けようとします。
さらに危険な「生命の危機」を感じた場合は、
背側迷走神経複合体が働いて、
離れて閉じこもることで身の安全を図ろうとします。

そして、その「安心」・「安全」、「危険」、「生命の危機」を
感じ取るのは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・嗅覚の五感だけでなく、
実際にはもっと大きなウエイトを占めているのが内臓感覚で、
ここにも迷走神経(求心性感覚線維)が関係します。

以前、脳・腸・腸内微生物叢(Microbiome)に関連する
日本発の研究成果の話をこのブログでしました。
『脳ー腸ーマイクロバイオーム』+肝臓?

ここで脳と腸が会話をするのに重要な役割をしているのが、
求心性迷走神経肝臓枝(上行性)なんだそうです。
腸内の情報は腸から一旦肝臓に入り、
迷走神経肝臓枝から脳に伝えられ、
そこから再度(下行性)迷走神経を伝わって、
腸内の神経節に対処法の指令を送っている様です(※)。

※他にも腸内細菌の作り出す物質が腸壁細胞に伝わり、
 腸管神経節から直接上行性迷走神経経由で
 安心・安全情報が伝えられるルートもあると思われます。

おそらく、腸内に微生物がいない状態を身体は緊急事態ととらえて、
脳に「おかしい、異常事態だ!」と情報を上げているのだと思います。

その結果、身体は「安心」「安全」ではなく「危険」を感じ、
交感神経優位の状態を作り出します。
その結果、社会性は抑制され警戒モードとなるわけです。

ストレスでお腹にくることは経験的にも理解できますが、
腸内環境を整えることでストレスが減るというのも
最近よく言われるようになりました。
それはこうしたメカニズムなんですね。