SARS-Cov-2とインターフェロン2

昨日からひき続き、
The dual nature of type-I interferons in SARS-CoV-2 induced inflammation(SARS-CoV-2誘発性炎症におけるI型インターフェロンの二重の性質)”
という論文を読んでいきます。

SARS-Cov-2は監視の目をくぐり、INFの産生を遅らせることで、
増殖することができることがわかりました。

さらに困ったことに、最近の研究によると、
今度は宿主(つまり私たち)の中に
INF-Iを中和させてしまう自己抗体というのを
持っている人が一定の割合でいる様なのです。

研究によると、重症のCOVID-19患者の10.2%に
自分のINFを無力にしてしまう抗体が存在していたそうです。

ただし、こうしたINFに対する抗体をもった患者さんは、
いずれも過去に入院を必要とするような、
生命を脅かすようなウイルス性疾患の病歴があった様で、
これはリスクファクターとして知っておくべきことかもしれません。

一般的に、ワクチンをうつ意味というのは、
SARS-Cov-2に対する抗体を作るため
と理解されているように思います。
このためこれまでのCOVID-19の研究は、
SARS-Cov-2特異的抗体のB細胞産生に
焦点を合わせてきています。

しかし、ウイルスが細胞に侵入してしまうと、
抗体は全く役にたたないことを忘れがちだと筆者は言います。
(まあ、細胞内で増殖したウイルスが血中に出てきたところを
 叩けば結果的にはOKとも考えられますが、
 結局それでは、感染細胞から次々とウイルスが
 供給されるでしょうから、最終的には疲弊して負けかも。)

それはともかく、もし、細胞が感染してしまった場合は、
T細胞、特にCD8+細胞障害性T細胞(CTL)が、
ウイルス感染細胞の排除に大きな役割を果たしますので、
T細胞が元気であることも大切です。

一方、CD4+T細胞は、昨日も書きましたが、
INF-IとIL-15の刺激によって濾胞ヘルパーT細胞(Tfh)に変化し、
TfhはB細胞と協同して抗体産生を行うことから、
こちらもT細胞が関与します。

このTfhとB細胞の相互作用は、
リンパ節の胚中心と呼ばれるところで行われいるのだそうですが、
重度のCOVID-19患者では、
この胚中心が顕著な機能障害に陥っているのだそうです。

CD4+T細胞をこのTfhに分化させるのに
INF-Iが重要なのですが、
ここで「老化」の問題が出てきます。
免疫老化の原因は議論の余地があるとのことですが、
老化自体がIFN-1機能不全に関連している
という証拠が増えているそうです。

実際、 インフルエンザなどの他のウイルスでの応答は、
老化によりINF-IおよびINF-III産生が
急速に低下しているのだそうです。
これはSARS-Cov-2感染でも同様です。。
つまり、COVID-19の重症化は、
主に免疫老化によるIFN-I機能不全の反映なんだと。
(ま、それだけではないでしょうが)

ウイルス感染の効果的な免疫応答は、
感染初期にINF-IがT細胞と接触することが大切で、
この接触がないと、疾患は重篤になります。
そこで感染初期にINF-I(またはその誘導体)を投与することで、
疾患の重症化が予防できると考えられますが、
問題なのは、段階が進んでしまうと予防できない、
それどころかSARS-Cov-2の場合、
むしろ悪化を導いてしまうのだそうです。
つまりサイトカインストームを引き起こすわけです。

ですからINFは感染の初期にこそ投与するべきもので、
後期に投与は逆効果になるそうです。

COVID-19に対してINF-Iの投与は、
投与するタイミングが重要と言うことですね。

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SARS-Cov-2に対するINFについて
他にもこんな記事を見つけました。

新型コロナウイルスとインターフェロンについて

日本RNA学会というのがあるんですね。
こちらにリレーエッセーがあり、その中で今回のCOVID-19と
INFについて専門家の先生のお話を読むことができます。

ここにINFがCOVID-19の標準治療になっていないことに対する
考察がなされています。

SARS-Cov-2ウイルスが人体に感染する場合、
ACE2というレセプターを標的にして肺などで細胞に侵入する、
ということは、すでにいろんなところで読みました。

ところが最近、
ACE2はI型IFNによって発現誘導されることが明らかとなったのだと。
もしI型IFNの投与量が低すぎると、I型IFNの抗ウイルス作用よりも、
ACE2の発現上昇を介した新型コロナウイルスの伝搬の方が
上回る可能性が出てくるのだそうです。

つまり、投与量が最適でないと、
I型IFNによって治療をしているはずが、
かえってウイルス感染を肺組織に広めることになってしまう。
これは大変なことです。

SARS-Cov-2はもともとINFから誘導される次のステップを
回避させる術を持っているので、
INF-IをCOVID-19の治療に用いる場合、
他のウイルスの治療時と比べ、
大量に投与しないと効果が得られない可能性があるそうです。

そうすると、さらにそこに問題が発生・・・
I型IFNの重大な副作用の中に、
頻度は低いが間質性肺炎があるそうで、
ただでさえCOVID-19は肺に損傷を起こしやすい上に、
間質性肺炎に移行しやすいとすれば、
その臨床応用は、簡単ではないことが予想されるのだそうです。

うーん、ザンネン!

まあ、確かに、それにインターフェロンって、
C型肝炎の治療で用いられますが、
初期の副作用に発熱や全身倦怠感、筋肉痛などもあるそうで、
注射と点鼻の違いはあっても、
これじゃぁ、SARS-Cov-2に感染したかもと言うときに使ったら、
COVID-19を発症したのかINFの副作用なのか、
区別がつかなくなるかもしれません。

中々うまく行きませんね。