SARS-Cov-2とインターフェロン1

新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)に対する対策として
ワクチン接種が始まりつつあります。
現在確実に有効な治療薬が現存在しない以上、
こうした予防的な戦略はどしても必要なのかなとも思います。

それと同時に我々にできることは、
本来からだが持っている自然免疫力を疲弊させないことです。
具体的な方法は、本間真二郎先生が書かれた、
『感染を恐れない暮らし方』という本が参考になります。

今回は、その自然免疫の中でキーとなるインターフェロンの話です。
インターフェロン(INF)(特にI型)はウイルスが侵入してきたとき
速やかに分泌され周囲に緊急事態をシグナルとして伝え、
免疫細胞を変化させて対応させます。

後に示します論文の最後にも書いてありましたが、
現在のワクチンはウイルス表面の単一タンパク質だけを
情報として免疫細胞に教え込ませ、免疫をつけようとするもので、
変異株の変異度が大きくなれば効かなく可能性もあります。
また、その免疫の有効性がいつまで持続するのかも
まだよくわかっていません。

これに対してINFによる自然免疫は、
はじめてのウイルスであってもうまく働けば、
免疫細胞を動員させて体からウイルスを排除してくれます。

それなら、INFを感染のごく初期にまたは予防的に
投与すれば発症しない、もしくは軽症で済むのでは?

実は僕はそう思っていたのですが、
ことはそう単純ではなさそうなんです。

そのあたりのことが次の論文に書かれています。
The dual nature of type-I interferons in SARS-CoV-2 induced inflammation(SARS-CoV-2誘発性炎症におけるI型インターフェロンの二重の性質)”
出典は、Treds in Immunology VOLUME 42, ISSUE 4, P312-322, APRIL 01, 2021

この論文は、最初にINFがウイルスをどのように駆除するか
といった仕組みを説明します(下図A)。


I型INF(INF-I)が樹状突起細胞(DC)の様な抗原提示細胞に働くと、
IL-15というサイトカインの合成が誘導され、
さらにINF-IとIL-15によって、
一つはCD8+Tcellという細胞に働いて、
細胞障害性T細胞(CTL)に変化し、
ウイルスに感染した細胞を駆除します。

もう一つのルートは、やはりINF-IとIL-15が、
CD4+Tcellという細胞に働いて、
濾胞ヘルパーT細胞(Tfh)に変化し、
この細胞とB細胞が協力して、
ウイルスに対する中和抗体(Ab)が産生されます。

このように、INF-IはCD8+TcellとCD4+Tcellの両方に働いて
細胞性免疫と体液性免疫の両方に
プラスの影響を与えることができます。

ところがSARS-Cov-2は、このINF-Iの産生を抑制する
メカニズムを進化させてきているそうなんです。

つまりたとえて言うと、最初の細胞に侵入するときに、
怖い顔を隠して人畜無害なふりをして、
INFを細胞に出させない様にしておいて、
その隙に自分の分身を増やしてしまう戦略をとる様なのです。

実際に中等度から重度のCOVID-19の患者さんでは、
INF-βの産生が著しく低く、
その結果IFN-I刺激遺伝子(ISG)誘導が
最小限に抑えられていることが観察されているそうです。

INF-Iの産生が不十分だとT細胞の活性化が不十分になります。
すると、細胞障害性T細胞も消耗・減少し、
感染した細胞の除去が行われず、
感染した細胞から炎症性サイトカインが継続的に産生されます。
また、濾胞ヘルパーT細胞(Tfh)も減少し、
中和抗体は産生されません。(図1B)

これは困ったものです。

ちょっと長くなったので続きは明日。