『腸と脳』第3部 脳腸相関の健康のために 第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食1

著者のエムラン・マイヤー氏はUCLAの教授ですので、
アメリカ在住なんだと思いますが、そのせいもあってか、
現代のアメリカ人の食習慣には大きな危惧を抱いています。

アメリカ人の日常食に含まれるカロリーの35%以上は
脂肪分に由来し、しかもそのほとんどは動物性脂肪だとか。

動物性脂肪を多く含む食事が、
過食や食物依存を引き起こすことや、
腸内微生物がこの結びつきに重要な役割を担っていること
についてはあまり知られていないと筆者は言います。

動物性脂肪の過剰な摂取と、
脳疾患を含めた疾病の発症を結びつける主要因の一つが、
慢性的な低悪性度炎症であることが示されているそうです。

腸を発端とする炎症は、身体中に広がり、
(嗜好をコントロールする領域を含め)重要な脳領域に
達する可能性があり、
このプロセスには腸内微生物が強く関与しているのだとか。

動物性脂肪の含有率の高さ、植物性食物の割合の低さ、
多量の化学物質や保存料の添加に特徴付けられる
現代のアメリカ的日常食は、私たちの
「脳ー腸ーマイクロバイオーム」相関を悪い方向に
再プログラミングしていると筆者は言います。

食習慣におけるこの変化は、
人間の生理メカニズムの分水嶺ともいえる、
きわめて危険な地点へと私たちを誘導しています。

今日の動物性食物は、私たちの祖先が食べてきたものや、
隔絶した地域で先史時代の生活様式を現在でも維持する、
狩猟採集民のわずかに残った直系の子孫が食べているものとは
根本的に異なるのだと。

太古の人々がたべていた肉は、野生動物、鳥類、魚類、昆虫など、
さまざまな動物から得られたもので、
現在市販されている肉製品に比べて脂肪分が非常に少ない。

野生動物は自然環境の中を自由に動き回って、
さまざまな植物やその他の生物を食べるため、
きわめて多様なマイクロバイオームを宿しており、
それによって健康と、病気に対する抵抗力を保ってきたのだと。

対照的に現代の家畜は、一生を小さな檻のなかで暮らし、
できる限り効率的に太らせるために、
消化器系に合わない(トウモロコシなどの)資料を与えられている。

また腸内微生物の多様性を低下させる抗生物質や
その他の化学物質を投与されているのだと。

このような理由から、家畜から得られる肉、卵、ミルク、
ならびにそれらを精製加工して生産された食品は、
50年前のものと比べてさえ劇的に異なり、
私たちの食を根本的に変えてきたのだと。

残念ながら、このような変化に対応する防御手段が、
進化の過程を経て組み込まれるだけの時間は
まだ経過していないのだと筆者は言います。