本:ポリヴェーガル理論入門6 治療へ

著者のポージェス博士は、ポリヴェーガル理論をもとに、
トラウマや聴覚過敏に対する治療に対する戦略についても、
(個人的な見解とのことですが)この本の中で述べています。

まずは聴覚過敏の治療法ですが、
リスニング・プロジェクト・プロトコル(LPP)
というものを開発されています。

基本となる仮説:
通常、人間の声を聴いているときには中耳の筋肉は収縮し、耳小骨連鎖は硬化する。これにより内耳は、人間の声を聴きとりにくくする低周波数帯の雑音をほぼ取り除き、高次の脳が人間の声をより処理しやすくするようにさせる。
人間の声の周波数帯の中の聴覚エネルギーを変調させ、いわばおおげさに抑揚をつけた声を聴かせることで、中耳の筋肉の神経的制御を活発化させ、調整することで、聴覚過敏が改善し、心臓の腹側迷走神経経路に影響を与え、自発的な社会交流システムが生まれ、落ち着いた生理学的状態が生まれるという仮説の基づいて、この技法が開発された。(巻末 用語解説 p.22)

方法:
クライアントは通常の人間の声の周波数帯の中で調整された聴覚刺激を、ヘッドホンを用いて両方の耳で聴く。プロトコルでは60分の聴覚プログラムを5日間続けて行うことが課されている。これはmp3やiPodデバイスで提供される。静かな部屋で、気が散るようなものがないようにし、臨床家か両親のどちらか、あるいは研究者が、穏やかに見守り、クライアントが落ち着いた状態でプログラムを聞けるようにすることが求められる。(巻末 用語解説 p.22-23)

このプロトコルに、
10年間で200人以上の子どもと、数人の大人が参加し、
50%の人が、聴覚過敏を示さなくなり、
社会的交流活動も改善したそうです。(p.72-73,107)

この治療法の最も大切なことは、
クライエント(子ども)を生理的に落ち着いた状態にし、
「安全である」と感じられるようにすることだそうです。

神経系が過度の警戒状態を脱し、
自己防衛の必要を感じなくなると、
子どもの神経系は中耳の筋肉を制御できるようになり、
こうした状態がもたらす
神経生理学的な良さを享受することができるそうです。

また、ポージェス博士は音楽についても言及されています。

音楽が時にいろいろな疾患に効果を発揮する場合がありますが、
なぜ効くかについて、
その作用機序はまだ解明されていないそうです。
しかし、ポリヴェーガル理論によれば、
中耳筋や歌うときに使われる口頭・咽頭筋が
社会交流システムの一部であることが明らかになったので、
音楽療法がどう作用し、
なぜ役立つのかを説明できるようになったと言います。

歌うとき人は呼吸をします。
歌うためには長く息を吐くことが求められます。
吐いている間は、
有髄の迷走神経の遠心経路の心臓への働きかけが強まります。
また、歌うことや、吹奏楽器を演奏することで、
生理学的状態が穏やかになり、
社会交流システムが活性化するのだそうです。

歌うことは聴くこと
これが中耳筋の神経の緊張を増進させ、
歌う時には喉頭咽頭筋の調整も使います。
これは顔面神経と三叉神経を通して
口と顔の筋肉を使っていることになります。

グループでコーラスをする場合、
他者と関わり、社会的な活動をしていることになります。
特にグループで歌うことは社会的交流システムの
すばらしい「神経エクササイズ」なのだそうです。