本:ポリヴェーガル理論入門5 双方向性システム

ポリヴェーガル理論では、「安全」ということと、
「社会交流システム」というものを非常に重要視しています。

一番最初に、迷走神経は有髄性と無髄性の2つあると書きましたが、
それなら、”poly-vagal”ではなく、”bi-vagal”でもよいはずです。

実は、本文中にも書いてあったのですが、
迷走神経の遠心性経路(脳から内臓に向かう神経)は、
全体の20%で、この20%に有髄性と無髄性の神経が含まれます。
残りの80%は感覚神経、つまり内臓から脳に向かう求心性神経なのです。

置かれた状態が、
「安全」「危険」「生命の危機」
のいずれなのかを反射的に感じることを
「ニューロセプション」と言うのだと解釈したのですが、
おそらく、この「感じるシステム」こそ、
残りの80%の迷走神経によるのではないかと思います。

この求心性の迷走神経は、
内臓の状態をモニターして脳に伝えるものなんだろうと思いますが、
おそらく、目の前の状況が変化した際にも、
身体の臓器が感じ取った感覚があり、
それも脳に伝えているいるのだと思います。
これは意識に上るものではありませんが、
それによって、何となく身体の快・不快を
感じ取っているのではないかと思います。

第六感というのは迷走神経感覚枝によるものかもしれません。
頭では大丈夫と思っても何かひかかる、
そんな感覚はひょっとしたら内臓の感覚なのかもしれません。

そう考えると迷走神経は、
20%の平滑筋に影響を及ぼす2つの運動神経経路と、
80%の感覚神経の双方向性の作用によって、
身体全体を適応させていると考えられ、
まさに”poly-vagal”神経だと言えます。

こうした考え方は、以前より当ブログでも何回か紹介している、
身体と脳、身体とこころ、という話に通じるものだと思います。
本:動きが心をつくる1

実際にポージェス博士もこの本の終わりの方では、
心理療法にソマティックな視点がもっと必要という話をされています。

私たちは、もっと身体反応に注意を払うことが必要です。身体が教えてくれていることを、一様に拒否する方法ばかり習得しても意味がありません。身体反応を尊重すると、「気づき」と自発的行動によって、もっと心地よく感じる場所へと自分を導くことができるようになります。(p.248)
ただ、自分の身体に注意を払うことと、
困った症状に意識を集中してしまうことの違いが、

今ひとつ僕はまだよくわかりません。

まあ、おそらくですが、
たとえば、耳鳴りが気になってしょうがない時、
これはもちろん、急な聴力低下がないかをチェックする必要はありますが、
そうでなければ、交感神経の緊張状態が強くなっていると考え、
疲れ・寝不足・ストレスなどがたまっているのを
身体が教えてくれているのだと考え適切な対処をしましょう
ということなのではないかと思います。

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ところで、「双方向性」というキーワードは、
ポリヴェーガル理論ではもう一つ重要な考え方として出てきます。
それは先に出てきました社会交流システムです。

人間は他の人の声の韻律や抑揚で、あるいは表情や身振り手振りで、
その人がどんな心理的・生理的状態にあるのかを感じ取って、
「安全である」と感じるのか、
敵と感じて闘争/逃走反応をすべきなのか、
あるいは、不動化・シャットダウンを起こすのかを選んでいます。
(まあ、対ヒトでシャットダウン=失神、なんてことは、
そうめったにないでしょうが)

しかし、社会生活をおくる中では相手の状態を読み取るだけでなく、
自分も相手に対して感情を表すことで、
相手との関係を築こうとする面もあります。
つまり社会交流システムも双方向性のものであるということです。
(まあ、実際は感情を押し殺そうとする場合の方が多いのかも)

(本文より)
哺乳類の中に、落ち着くための迷走神経が現れました。この新しい有髄の神経を調整する脳幹領域は、顔や頭の筋肉を調整する脳幹領域と結びつきました。この脳幹領域は、中耳筋を使って聞く能力、口頭・咽頭の筋肉を使って発声する能力、顔を使って感情や意思を表現する能力を制御しています。(p.99)

近年、テクノロジーの発達によって、
この双方向性の社会交流システムが
うまく機能しなくなってきていると、
ポージェス博士は言われます。

我々はコンピュータを使い、
スマートフォンでメールを打ったりするようになりました。
これにより、人間の相互交流の本質である、
じかに対する体験が剥奪されているのだと。

そこには、かつての共時的な双方向の交流ではなく、
伝言を残し、その相手と実際に合うのは後回しという、
時間をともにしない方法へと移行しているわけです。

最近、児童にiPadなど最新の技術を導入した
というニュースがあったそうですが、
カメラに映し出された教室では、子どもたちはiPadを見ていて、
友達や先生を見ていない。

これでは、子どもたちは社会交流システムを
促進する神経回路を訓練できないわけです。

この神経回路を使ってみる機会がなければ、
子どもたちは困った時に自己調整したり、
他者と協同調整をする能力を獲得できないと
ポージェス博士は言われます。