後鼻漏10 後鼻漏に関連する漢方薬1 

最後に後鼻漏に良いと思われる漢方薬を考えてみましょう。

これまで参考にしてきた、
『知られざる後鼻漏-鼻から始まるその不快感の正体』 呉孟達, 幻冬舎
にも東洋医学に関する記載があります。
「全身性後鼻漏」という別の範疇で書かれています。(p.214-223)

これがまた、マニアック!
著者の呉先生は東洋医学にも詳しい様で、
これまた基礎知識がないと中々難しいところです。

何となく、
「この症状ならこの処方!」
とやりたい処ですが、そうじゃないんですね。

まあ、ざっと、総論を参考にしながら、
最後は僕の考えでまとめてみたいと思います。
まあ、まだまだ漢方の勉強も中途半端なもので、
うまくいくかどうかは分からないところですが。

そのあたりのことは、上述の著者も、
”漢方薬は、全身の体質、体調も吟味した上での投与こそ、大きな力を発揮できるものだということを強調しておきたいと思います。個々の身体条件や服薬歴を一切考慮せずに、蓄膿症であればこの種の漢方を飲むといった機械的な投薬方法は、全く東洋医学の理念に反しますし、漢方薬の本来のよさを引き出すことはできません。(p.210)”
と述べています。

とはいえ、その上で、基本となるなる処方を教えて下さっています。
副鼻腔炎に対して、寒熱の弁証法(分析方法)に基づいて、
最低でも寒証と熱証に分けて投与すべきとしています。つまり、
寒証に対しては「辛夷清肺湯」を、
熱証に対しては「荊芥連翹湯」が第一選択的な処方として、
挙げて下さっています(p.210)。

寒証とは、局所が冷えていて顔色が悪く、温かいものを飲みたがる体質。
機能が衰えている様な状態も含まれます。
熱証はとは、汗っかきで顔が赤く、ほてりが強い人。
炎症症状が強かったり、機能亢進がみられる状態をしまします。

僕の中では、辛夷清肺湯は、
鼻茸があって比較的薄い粘性の鼻汁がある場合に、
比較的よく処方する場合が多いのに対し、
荊芥連翹湯は、もう少し粘稠な黄色みがかった鼻汁が多い
人に処方しているような気がします。

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次に、後鼻漏を全身的な病態(全身性後鼻漏)という観点で
著者は、病態に対する考察されています。(p.214-223)

後鼻漏は「非生理的な水分」と考えられ、
東洋医学的には、「淡飲・水飲」と呼ばれています。

淡飲・水飲
痰(下気道=気道分泌物)、瀉痢(腸=水様性下痢)、
流涎(よだれ)(口腔=唾液過多)、胃水(胃酸逆流)、
溢水(いっすい)(皮膚=浮腫)なども含まれており、
後鼻漏は、
鼻キュウ=漿液性鼻漏と
鼻淵(びえん)=粘性・膿性鼻漏とに分けられます。

また、後鼻漏が生じる機序を、東洋医学の理論の一つ、
五行説に沿って説明されています。それによると、
主に3つの系(脾系、肝系、腎系)の不調のタイプがあるとのこと。

<脾系>
「脾」とは西洋医学的な脾臓ではなく、
消化吸収、水分の代謝などを含んだ概念です。
脾系の機能低下が生じる
⇒体内に水分が貯留=淡飲
⇒鼻腔・咽頭の分泌液として現れたものが後鼻漏なのだそうです。

ここからは僕の考察:
と言っても、いろいろなサイトからの寄せ集めですが。
主に参考にしたのが次のサイト
一二三堂薬局 漢方名処方解説 3)脾(ひ)と胃(い)とは

脾の異常のうち、後鼻漏と関係がありそうなのが、
脾気虚、脾陽虚、脾肺気虚、寒湿困脾、脾胃濕熱といった概念。

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脾気虚
:脾に供給される気が不足した状態
食欲不振、空腹感や味覚の低下、食後の眠気や腹部の張り、
下痢や便秘といった便通障害、疲労感、手足の重だるさ、
声を出すのがおっくう、体重や筋肉量の減少など
⇒西洋医学的には、慢性胃炎やサルコペニアでしょうか?

そう考えると、GERD・LPRDに伴う後鼻漏感や、
加齢による運動性後鼻漏感がこれにあたるかもしれません。
対応薬:六君子湯(43)、五苓散(17)、啓脾湯(128)、補中益気湯(41)など

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脾陽虚
:脾気虚よりも気の不足が深刻化した状態
気の身体を温める作用(温煦(おんく)作用)が低下した状態
脾気虚の症状にくわえて腹部の冷え、
腹痛(特に冷たいものを摂った後)、下痢、むくみ、
透明な尿の頻尿などといった症状がでてくるそうです。

⇒老人の頑固な鼻水にOldman’s dripというのがあります。
加齢に伴う自律神経系の機能低下や変調により、
大量のサラサラとした前鼻漏・後鼻漏を訴えられる人がいます。
アレルギー性鼻炎と違って、くしゃみや鼻閉はほとんど伴わない。
(↑上述の本にも出てきます(p.151))

また、漢方的な症状に「喜唾」と呼ばれるものがあります。
当院の「鼻の症状」のサイトにも少し紹介しています。
後鼻漏感が非常に強く、診察中も絶えず唾をぬぐっていらっしゃいます。
これは、僕は軽い脳梗塞をしていそうで痩せた人に
多い印象を持っていました。
今回、上記の本で勉強してみますと、
ひょっとすると非顕在性運動障害によるものかもしれません。
対応薬:人参湯類(人参湯(32)、桂枝人参湯(82)、真武湯(30)など

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脾肺気虚
:脾だけではなく肺における気虚がともに進行した状態
脾と肺は五行論における母子関係にあり、
脾気虚を発端に肺気虚が進行しやすいとのこと。
脾気虚の症状に加えて息切れ、呼吸のしにくさ、
水っぽい痰をともなう咳、かぜを引きやすい、
発汗過多などが挙げられるそうです。

⇒これは、アレルギー性鼻炎に伴う後鼻漏・咳、
あるいは咳喘息が該当するような気がします。
対応薬:基本として参蘇飲(66)、
また、ベースとして補中益気湯(41)、六君子湯(43)に
五虎湯(95)や麦門冬湯(29)をといった咳を静める薬を併用

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寒湿困脾
:寒性を帯びている水湿が脾胃に停滞した状態
「冷たいヘドロ」のようなイメージだそうです。
食欲不振、吐気や嘔吐、口の粘り、胃腸の張り感、腹痛、
軟便や下痢(便の臭いは弱い)、身体の重だるさ、頭重感、
むくみ、日中の眠気など

⇒口の粘りは参考になるかも。軟便や下痢というのはIBSか?
対応薬:胃苓湯(115)、五苓散(17)、茯苓飲(69)、カッ香正気散など

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脾胃濕熱
:熱性を帯びている水湿(湿熱)が脾胃に停滞した状態
消化器に「熱っぽいヘドロ」のようなものがたまっているイメージ
食欲不振、吐気や嘔吐、口の粘り、口の渇き、
軟便や下痢(便の臭が強くベトベトしている)、色の濃い尿、
肌のかゆみや黄色化など

脂っこいものやアルコール類を摂り過ぎた後、つまり二日酔いや
そのような生活を繰り返していると陥りやすい病態だそうです。
⇒口の中が赤くて、膿性の濃い痰がへばりついている様な人を
時々みかけます。ああいうタイプでしょうね。
対応薬:茵陳蒿湯(135)、茵陳五苓散(117)、
平胃散合黄連解毒湯(79+15)、黄連解毒湯合五苓散(15+17)

長くなってしまったので続きは明日。