第9回耳鼻咽喉科心身医学研究会2

昨日に続き、日本耳鼻咽喉科心身医学研究会の講義メモ

☆特別講演 「疲労・うつモデルマウスを用いた基礎医学的研究」
名古屋大学医学系研究科・機能組織学 木山博資先生

近年、適切な診察や検査を行っても、
器質的疾患の存在を明確に説明できない病態として、
機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome;FSS)という
概念が提唱されてきました。

このFSSの中には、
慢性疲労症候群や線維筋痛症、化学物質過敏症、過敏性腸症候群。
PTSD、月経前緊張症、顎関節症、舌痛症などが含まれます。

こうした疾患に共通する症状として、
睡眠障害、過度の疲労感、異常な疼痛などがあります。
こうしたものは慢性ストレスに対する生体応答と考えられています。

こうした慢性ストレスを研究するためには、
どうしても動物を用いた研究が必要になります。

それに対して、演者の木山先生は、
マウスを入れたゲージに、水を薄く浸すことで、
ストレスを負荷させたモデルを考えられました。

住居に薄く水を張るくらいで、
マウスがそんなにストレスを感じるとは、
容易には想像できないのですが、
これがすごく研究には向いていたのだそうです。

そして、できあがった慢性ストレスモデルを用いて、
身体がどんな風に変化するのかを調べました。

いろいろと実験結果も示していただいたのですが、
とりあえず、結果のみ:
1.慢性的なストレスは脳の神経細胞の変調を引きおこす。
2.同じく、自律神経系や内分泌系の異常をおこす。
3.海馬での神経再生を強く阻害する。(⇒記憶障害や精神疾患)
4.免疫反応を抑制。(⇒病気になりやすくなる)
これらの結果、恒常性維持機構の破綻。

先のFSSに共通する症状の一つとして痛覚過敏があります。
典型的な状態は、”アロディニア”と呼ばれています。
これは、痛覚の閾値が異常に低下した状態です。

そして、木山先生が開発された水浸負荷マウスでも
痛覚閾値の低下がみられたそうです。
そこで、痛みを本来感じていると思われる末梢部分を
顕微鏡で検査してみたそうですが、
そこにはあまり変化はなかったのだそうです。

これはどいうことかというと、その後の研究から
脊髄レベルで痛みを感じるシステムが
亢進しているのだとわかったそうです。

なかなか難しい話で、僕も半分もわかっていないのですが、
(これはあくまでマウスでの話だという前提はありますが)
脊髄の後角と呼ばれる部分は、
感覚神経が多く出入りし、中継している部分なのですが、
ここにミクログリアと呼ばれる特殊な細胞が活性化・増殖して、
痛みの情報を長く伝えるように働くので、
痛みが持続し、また、痛みの記憶となるのだそうです。

僕は、こうした痛みの感じやすさは、
脊髄レベルよりも、もっと中枢側の、
脳の中で起こっているものと思っていました。
脳が過敏になっていると。

このことを、懇親会の時に演者の先生にお聞きしたところ、
研究の結果そういうことがわかったけれども、
脳の方は脳の方で、
たとえば扁桃体などを巻き込んだ形のシステムもまた、
別にあるのではないかと思うと先生はお話くださいました。

これは痛覚の話ですが、
痛みと耳鳴りというのはよく対比して考える場合があります。
耳鳴りの場合はどうなんでしょうね。
頑固な耳鳴りの場合、
蝸牛神経核のあたりにミクログリアみたいなものが活性化して、
悪さをしているみたいなものはないのでしょうか?
今後の研究が待たれます。