本:診療所の窓辺から

『診療所の窓辺から いのちを抱きしめる、四万十川のほとりにて』 小笠原 望,ナカニシヤ出版

著者の小笠原先生は、WS000000
高松赤十字病院で病院勤務を長らくされたのち、
高知の四万十川のほとりで開業され、
今も地域の医療をになっていらっしゃるそうです。

高知だといっても、僕は全く面識もなく、
この本を読むまで全然存じ上げませんでした。

そんなものですから、
この本を何で知ったかちょっと覚えていないのですが、
多分facebookか何かで友人の先生がイイネを押していて、
高知だからというので目に留まったのかもしれません。

そんなわけで何気なく本を取り寄せて、
何気なく手にとって読み出した本だったのですが、
自ら川柳教室を主宰されている様に、
文章はユーモアがあって、それでいて温かく、
ぐんぐんと引き込まれてきました。

特に四万十川のほとりでの診療所の話は、
心に染みこみます。

「どんなにつらくてもそのうち舞台は回ります」
待合室にこの言葉を掛けておられるそうだ。

いつかは状況が変わる、
いつまでも辛い状況は続かないといった意味だと思いますが、
この言葉で救われた患者さんがたくさんいたはず。

また、著者は普段の診療所での仕事に加え、
在宅医療も行っていらっしゃいます。

地域が地域ですから・・・高知の田舎です、
高齢者、超高齢者がたくさんいらっしゃいます。
そんな地域での在宅医療、
さぞかし大変だと思います。

本の中にも書いてありましたが、
「外来診療中に(患者さんが急変し)呼ばたらどうするんですか?」
と若い先生に聞かれることがあると。
実際には、患者さんの方が、困る時間帯は避けてくれるらしい。
四万十川のほとりで開業して10年の間に数回しかなかったとか。

これとよく似たことは僕も勤務医時代に感じたことがありました。
一生懸命お世話をしている主治医の場合、
患者さんはたいがい主治医が当直の日とか、
比較的手の空いている時にお亡くなりことが多く、
学会で不在で他の先生が看取ったということはあまりないんです。

この小笠原先生は、
患者さんからすごく信頼されているんだなというのがわかります。

タイトルが、
『四万十川の流れはささやく 「なにごとも、ほどほどに』
という文章があります。

現在の日本は都会も田舎も疲れている人が多い。
老老介護しかり、認知症の親の介護しかり。
若い人は若い人なりに人間関係等で悩む人が多い。

先生は、最近診察室で
「ほどほどにしようよ」と口にすることが多いという。
「もっと力を抜いて」とも。

僕なんかは一人一人に掛けられる時間が少なくて、
家庭の事情とかを詳しく聴くことができず申し訳なく思っています。
そんな僕でも、そのごく短時間にでも、
その患者さんの背景がなんとなく見えることがあります。
そうした時、やっぱり、
「もっとほどほどに」とか、「いい意味で手を抜いて」とか、
言った方がいいのかなと思うことがあります。
ただ、僕なんかが言ってもあんまり説得力がないかもね。

本を読むと、
筆者の小笠原先生がすごく忙しく走り回っているにもかかわらず、
実にゆったりと構えていらっしゃるのが伝わってきます。

それは、もともとの人間の大きさもあるでしょうが、
おそらく近くを流れる四万十川の悠然とした風景も
一役たっているのではと思います。