加齢性難聴と動脈硬化1

今週の木曜日は休診にして下関で開催される、
耳鼻咽喉科臨床学会に出席する予定です。

今回、加齢性難聴と血管内皮機能について発表する予定です。
ただ、あまり思っていたような結果がでなかったので、
どうしたもんかなと、ちょっと困っております。

ま、とりあえず、過去の論文などをよく読んで考察の糧としましょう。
・・・というか、今頃そんなことを言っていてはいけないのです(汗)!

というわけで、過去の論文を読んでのざっとしたまとめを
ここに書き散らしていきます。
あくまで、僕の備忘録。
くれぐれも質問等はなさらないように。
興味のない方は今週は飛ばして下さい。

——————————

『加齢性難聴』 藤井正人 IRYO Vol.62 No.6 (355-360) 2008
(図説 感覚器疾患シリーズ No.6 特集 聴覚障害)

加齢にともなう難聴の発症は50歳代から始まり,
60歳代から急速に感音性難聴が進行する。

まず4000Hz・8000Hzの高音域を中心に聴覚低下が始まり,
次第に中音域や低音域の聴力も低下してくるパターンが多い.
また, 聴覚低下のみならず言葉を聞き取る能力(語音弁別能)も低下してくる

難聴の程度と難聴による不自由度が必ずしも一致しない場合がある

現在のところ加齢性難聴に対する薬物治療は存在せず,
補聴器による医療介入がもっとも重要である.

——————————

『動脈硬化が聴力に及ぼす影響』 佐々木 亮 他,Audiology Japan Vol. 50, No. 5 2007 (弘前大学)

動脈硬化の指標として脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity:PWV):
左右の上腕、足首において脈派を測定して算出した
Brachial-Ankle PWV(baPWV)を測定した。

男性では、4kおよび8kHzにおいて
baPWVのグループ間で聴力レベルに有意差が認められた
女性では、2k、4k、8kHzにおいて
baPWVのグループ間に有意差が認められた

内田らは、動脈硬化の指標の一つである頸動脈内膜中膜複合体厚
と聴力との関連を検討し、
女性において頸動脈肥厚があると有意に難聴の危険性が高くなることを示している。

男女ともに4kおよび8kHzの聴力においては、
b aPWVが高いグループと低いグループとの問には有意差が認められ、
高音域でのbaPWの関連性が示唆された。

高音域の閾値上昇を示す加齡性難聴の進行には、
動脈硬化の関与が示唆された。

——————————

『動脈硬化と聴力との関連』 佐々木 亮 他
Audiology Japan Vol. 51, No. 5 2008 (弘前大学)
今回は農業に関係する騒音の影響をも検討するため、
農業とそれ以外の職種を区別して解析を行った。

解析の対象は男性188名、女性350名の計538名、1076耳となった

年齢、生活習慣、Body mass index、農業への従事の有無など
を加味して重回帰分析を行ったところ、
男性では8kHzにおいて、
女性では1k、2k、4k、8kHzにおいて
聴力レベルとPWVの有意な相関が見られた。

女性においては1kHzから8kHzの周波数において有意な関連性が示された
しかし、男性においては8kHzのみの関連が示されており、
難聴の進行には他の因子の影響も考えられた。

今回は騒音環境の影響を考慮し、農業への従事についても加味したが、
有意な結果は得られなかった

動脈硬化が難聴に関連する因子であることが考えられた
しかし、男性においては8kHzのみの関連が示されており、
難聴の進行には他の因子の影響も考えられた。

——————————

『老人性難聴の発症機序および予防法の検討』 山岨達也 他
Otol Jpn 16(2): 131-134, 2006 (東京大学)

ヒト側頭骨の研究から、老人性難聴発症例では
側頭骨におけるミトコンドリアDNAの変異や欠失が増加している
(Bai U, et al.1997,Fischel-Ghodsian N, et al. 1997)。
しかしながら、このミトコンドリアDNA変異の蓄積が
老人性難聴の原因であるかについてはいまだ不明な点が多い

ミトコンドリアDNA変異・欠失の蓄積による
ミトコンドリア機能・エネルギー代謝の低下が
聴覚機能に重要な蝸牛組織のアポトーシスを誘導し、
老人性難聴が引き起こされる可能性が示唆された。

——————————

『一般地域住民における糖尿病の聴力への影響』 佐々木 亮 他
Audiology Japan Vol. 52, No. 5 2009 (弘前大学)

平均寿命の短い弘前市岩木地区に在住する町民を対象に
健康状態の現状とその問題点を医学的観点から詳細に調査。
2006 年より、特に加齢に伴う難聴をテーマに聴力健診を行う。

難聴を進行させる因子を検討することにより
加齢性難聴の予防へとつなげられるのではないか

今回は糖尿病に着目
その結果、血糖値およびHbA1c 値いずれにおいても
男性、女性ともに1kHz~8 kHz の各周波数において
聴力レベルとの有意な相関は認められなかった

糖尿病の聴力との関連性は、
内田ら(2004)、Vaughan ら(2005)によって報告されている。
しかし、今回の結果からは糖尿病関連因子である
空腹時血糖値およびHbA1c 値いずれにおいても
聴力への有意な関連性は認められなかった。