本:蜂蜜と遠雷

このブログでは、本の紹介と称して、
いろんな本について書いてきました。

しかし、その多くは健康に関する実用書、
いわゆるハウツー本みたいなものが多いと
感じている人が多いかもしれません。

これは、最近の読書傾向に限らず、
学生時代からそうでした。
実際に、昔同級生か誰かに、「ハウツーの板谷」
なんて呼ばれたことがありました。
(この称号はなんかちょっとイヤラシイ響きがして
僕はあんまり好きではありません、念のため。)

まあ、確かに読書の中で、
小説のしめる割合はちょっと少ない様に思います。

まあ、だからというわけではありませんが、
「たまには小説も読んでいるんですよ」
というアピールも兼ねて、
今回は久々に読んだ小説の話です。

『蜜蜂と遠雷』 恩田陸,幻冬舎

本屋さんに行ったら、
1つのコーナーになっていますね。Mitsubachi to Enrai
恩田陸さんはこの小説で2回目の本屋大賞と、
直木賞を受賞されたとのことで、
多くの方がすでによくご存じかもしれませんね。

僕は恩田陸さんの本で読んだものといえば、
『夜のピクニック』と『夢違』くらい。
あと大分昔に『光の帝国 常野物語』を確か、
読んだような気がするのですが
あまり覚えていません。

『夜のピクニック』は、多部未華子さんが主演で映画化され、
青春時代のなんとなくノスタルジックな気分もして、
原作ともども好きな作品です。

その『夜のピクニック』のイメージが強いせいか、
何となく僕の中では恩田陸は
好きな作家の一人になっています。
たいして数を読んでいないくせにね。

さて、『蜜蜂と遠雷』ですが、
ピアノのコンテストを題材としたお話です。

4人のピアニストの卵(コンテスタント)が
コンクールの予選を受けるところから話は始まります。
4人それぞれのエピソードと、
選考委員達のエピソードを交えて
話は立体的に進んでいきます。

音楽を題材とした小説というのをネットで調べてみますと、
結構あるんですね。
僕は『さよならドビュッシー』くらいしか読んだことがありません。

ま、それはともかく、音楽小説の場合、
”文章でいかに音楽を聴かせるか”
が、作家のとしての腕の見せ所です。

この、『蜜蜂と遠雷』では、
主に4人のコンテスタントの演奏風景の描写がでてきます。
この描写が素敵です。
本当に紙面から音楽が聞こえてくるかの様です。

そして、クラシックの面白い所は・・・
と言いながら実はここから先は、
僕は知識としては多少理解できるのですが、
実感としてはほとんど分からない世界です。

つまり、演奏する音楽から、
作曲家の意図とか想いであったり、
演奏者の解釈などを読み解くのが
クラシックの面白いところらしいのです。

そして、音楽を聴きながら情景が浮かび上がってくる様なら、
それは素晴らしい演奏だということになります。
それはいわば”共感覚”とも言えます。
つまり、聴覚と視覚のoverlapです。

この話を書きながら、中学の時の音楽の授業を思い出しました。
ベートーベンの交響曲第5番『田園』を聴くと、
田園の風景が見えるでしょ!
学校の先生が言ってましたね。
確かに、僕もあれは少し「見えた」気がしました。
他に、ムソルグスキーの『展覧会の絵』も少しそんな気がしたっけ。
あくまでちょっとだけですが。
でもそれ以上の能力は僕にはありませんでした。

まあ、そんなことはクラシックをやっている人からすると
当たり前のことなのかもしれませんが、
何のクラシックの素養もない僕からしたらすごいことです。

そしてさらにすごいのは・・・
そこが作者の表現力でもあるのですが、
演奏を聴くだけで、聴衆はそれぞれ○○を見てしまう!
(一応ネタバレにちかいので○○と伏せておきます)

そのうちに映画化されるかもしれませんね。
僕は登場人物の中では、
やっぱり栄伝亜夜がお気に入りです。
もし映画化されるなら、誰がやるんだろう?
それを考えるだけでもワクワクします。

クラシックをよく知らない人にもお勧めの1冊です。

小説の中で演奏される曲を、
YouTubeで一挙載せて下さっている方がいらっいます。
「蜜蜂と遠雷」のピアノ曲をコンクールでの演奏順に集めてみた
https://spread-root.com/mitsubachi-to-enrai-piano/#i-7
これはいいですね。
音楽を聴きながらもう一度最初から読んでみたいと思います。