本:オキシトシンがつくる絆社会2 

前回からの続き

オキシトシンは、出産に伴う母子の安定した関係づくりにはじまり、
赤ちゃんが成長していくときに、社会性を獲得するのにも
重要な役割を持っていることがわかってきています。

また、オキシトシンは女性だけでなく男性でも分泌されていて、
男女を問わず、スキンシップの時にも
オキシトシンは分泌されやすいらしいのです。

おなかが空いたときに、胃に食べ物が入ってきたら、
ガストリンやコレシストキニンといった物質が分泌され
胃がそれを感じ取ると、
求心性迷走神経経由で脳に情報が伝わり満足感を感じます。
(これは誰でも経験するところです)

同じようなことが皮膚にもあって、
スキンハンガーと呼ばれる、いわば皮膚の空腹感みたいなものがあって、
皮膚が心地よい触覚を感じ取ると感覚神経経由でその情報が脳に伝わり、
このスキンハンガーが満たされる時にオキシトシンが分泌されて、
人をはじめとする哺乳類は幸福感を感じるのだそうです。

動物では母親が子どもの毛づくろいをしたり、
毛をなめたりするのは、そうした意味もあるのでしょう。

こうして幼少期からスキンシップで満足感を得ていると、
その効果は子どもが親元を離れても、
見守られている感覚さえあれば、
つまりいつでも戻ってこられる感覚が培われていれば、
子どもの情緒は安定し、社会とのつながりもスムーズになるのだそうです。

つまり、オキシトシンがしっかり分泌されると、
身体は安心・安全を感じて、
原則的には副交感神経優位となり社会性が育まれる様になります。
「原則的に」というのは、妊娠中や子育て中の母親が、
危険を感じた場合は、逆に攻撃的になる場合もあるからです。

オキシトシンは子どもだけでなく大人の情緒にも影響します。
不安や恐怖を減弱させる効果があるそうなのです。
また、他者の気持ちを汲み取る能力もアップさせるのだそうです。
人を信頼するのにもオキシトシンは重要な役割を果たしているのだそうです。

そんないいこと尽くしの様なオキシトシンですから、
これを体に取り入れたらいいんじゃないか。
そう考えるのは自然な考えです。

オキシトシンは9つのアミノ酸からできているだけですので、
今や合成もそれほど難しくないと思われます。
ただ、内服した場合は胃で分解されてしまいますので、
そのまま飲んでも効果はでないと思われます。

実際にオキシトシンは医療用としては、
出産時の陣痛促進などで注射薬があります。
これを、心身の健康に使えないのか・・・

実際に欧米ではスプレーが販売されている様です。
ネットを見るといくつかオキシトシンのスプレーがある様ですが、
日本ではたぶん認可されていないと思います。
売られているオキシトシンスプレーは、
日本製のものの場合は、オキシトシンを構成するアミノ酸や
リラックスを誘導するようなアロマの様な成分で、
直接的なオキシトシンの噴霧ではなく、
内因性のオキシトシン分泌を増やそうとするものだと思います。
外国製の場合は個人輸入になるのだと思います。
(先にも書きましたが、オキシトシンはもともと陣痛促進剤ですので
 妊婦さんは勝手に使用してはいけません。)

ただ、オキシトシンを自閉症スペクトラムの方に用いて
コミュニケーションを改善させる試みはある様です。
効くという話もありますが、効いても効果が持続しない等、
まだもう少し改良の余地があり製品化には至ってない様です。

外国からの個人輸入だと自己責任となると思いますが、
一つ気をつけておきたいのは、
この本にも書いてましたが(p.159,p.230)
人を信頼しすぎてしまう傾向がでてくるらしく、
それは潜在意識レベルに働く強い行動を引き起こす
可能性があるのだそうです。

つまり、オキシトシンを用いれば絆を感じることができるわけですが、
その絆が脅かされそうになった時、強い不安を感じたり、
ある種の脆弱性が誘起されます。

この不安を邪悪な意図を持った人々が利用すると、
健康や生命を脅かす行動に誘導することができる可能性があり、
極端なことを言えば戦争などで悪用されるかもしれないというのです。

まあ、大げさな話になりましたが、
実際にコミュニケーションの障害に苦しんでいる方にとっては、
安全に改善できる薬剤が開発されるといいなと思います。
そのヒントになるのがオキシトシンだろうと思われます。

そこまで深刻ではないけれど、
もっと普段の生活を楽しく過ごしたいという人にとっては、
内因性の(つまり自分の身体がそもそも持っている)オキシトシンを
有効に分泌させることができればいいということになります。

このあたりのことはもう少し考えていきたいと思います。