Catch me if you can

タイトルの”Catch me if you can”は、
レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクス主演の映画で有名ですが、
今回の話題はそれではありません。

Trends in Microbiologyという医学雑誌の
電子版5月11日号に掲載された論文:
”Catch me if you can: Superspreading of SARS-CoV-2”
(DOI:https://doi.org/10.1016/j.tim.2021.05.002
これの紹介。

Google翻訳で翻訳すると、
「可能なら私を捕まえてください: COVID-19 のスーパースプレッダー」
Microsoft Edgeの翻訳だと、
「可能であれば私をキャッチ:COVID-19のスーパースプレッディング」
となって、”Catch me if you can”の部分が何となく締まりません。
せめて、「できるもんなら捕まえてみろ」くらいに訳してほしいものです。
・・・なんて偉そうに言いましたが、英語の苦手な僕は、
これらの翻訳機能がなけりゃ外国の論文は読めません(トホホ)。

と、くだらない前振りはこれくらいにして、
この論文を少しずつ読んでいきましょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、
勢いがわずかに減少してきた様にも見えますが、
まだまだ予断を許さない状況です。

こうした感染症の拡がりですが、
新しい感染の80%は20%以下の特定の人からうつるとのこと。
(こんなところでも80対20の法則が出てくるんだ!)

つまり、伝言ゲームみたいに
A⇒B⇒C⇒・・・というようなうつり方ではなく、
特定の人がみんなに移すという伝搬の方法が多いわけです。

よく「クラスター」という言葉を聞くようになりましたが、
まさにこのクラスターを引き起こすのが、
スーパースプレッダーと呼ばれるわけです。

(上記論文から)

そこで、どういう人(場合)がスーパースプレッダーになるのか?
これが実はまだよく分かっていないのだそうです。

現在スーパースプレッダーと認定できた例からのデータによると、
ウイルスの遺伝子の突然変異とは関連がないそうです。

この記事によると、現在考えられている
スーパースプレッディングに影響を与える要因としては、
1)ビリオンのドナー特異的修飾
2)ドナーマイクロバイオーム
3)物理的因子
4)環境条件
5)その他
が考えられるそうです。

一つずつ見ていきましょう。

1)ビリオンのドナー特異的修飾
ビリオンとはウイルスが感染性をもった粒子構造にある状態のこと。
宿主の細胞の中でウイルスのmRNAからタンパク質が作られて、
最終的に粒子として飛び出してくるわけですが、
この時、粒子の表面にいろいろな変化が起こっているそうです。
それはリン酸化されたものだったり、糖鎖だったり、
そういうものがくっつくということらしいのです。

イメージが難しいですが、血液型のABOというのは、
赤血球の表面にくっついた糖鎖の違いなんだと言われたら
なんとなくわかるかと思います。

この、ウイルス粒子に何がどう付着するかは
宿主によって異なる可能性があり、
これがドナーの特異的修飾(donor-specific modifications)です。
そして、この付着物によって、
気道成分との相互作用が高まる可能性があるのだそうです。

2)ドナーマイクロバイオーム
マイクロバイオームとは微生物叢のことです。

コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、
本来、コウモリや水鳥の腸の中でおとなしく共生をしています。
ウイルスは単独では存在できませんので、
腸内細菌に寄生して共生しているのでしょうね。
もともと細菌との親和性は高いと考えられます。

こうした観点から、鼻のマイクロバイーム群が
呼吸器ウイルスの効率的な空中感染に
影響を与える可能性があるのではとのこと。

3)物理的因子
これは原因が、宿主(うつす人)とは関係なく、
特定の空間の物理的制約が重要な役割を果たす、
という考え方です。

ウイルス伝搬の方法としては、
(i)直接接触(direct contact)
(ii)汚染された表面を介して間接的に接触(indirect contact)
(iii)大きな液滴スプレー(large droplet spray)
(iv)エアロゾルトランスミッション(aerosol transmission)

これはCOVID-19が流行しだした時からずっと言われていますね。
「三密を避けましょう」というのはこれです。
患者の20%が環境にかなり多くのエアロゾルを排出する
と書いてあります。

また、おやっと思ったのが、体格指数(BMI)との関連。
肥満の人はより多くのウイルスを含んだエアロゾルを放出して
スーパースプレッディングに寄与している可能性があるとのこと。

その他の要因として、歌、特定の方言で話すこと、
声の音量なども影響を与える要因だとしています。

4)環境条件
ウイルスの感染性が持続するかどうかは、
温度と湿度が関係します。

以前の研究では、SARSやMERSの時のウイルスは
湿度が低い時および比較的高い時には安定しているが、
中程度の湿度条件ではより高い減衰率を示すことが
確認されています。

また、換気も重要な要因とのことですが、
これは今や当然ですね。

5)その他
宿主の免疫状態の変動もスーパースプレッダーとしての
要因になりうると。
免疫力が低下していると、
ウイルス量の増加と持続性の排出につながり、
伝染性の増加に寄与する可能性があるとのこと。

ウイルスの量というのは大きな要因です。
うつらない様にするには、たくさん吸い込まないこと。

以前、SARS-Cov-2はインターフェロン産生を回避させる
メカニズムを持っている
というお話をこのブログで書きました。

それでも、吸い込む量が少なければ、
自然免疫で何とか対処できる可能性はあるわけで、
マスクは移さない様にするためのものとは言いつつも、
やっぱり大量に吸わなければ、
症状の発症や重症化に対してある程度の予防になると思います。