補中益気湯の抗ウイルス作用

新型コロナ感染症(COVID-19)の第3波の収束が
まだまだ見えませんが、何とか乗り切っていきたいものです。

今回はCOVID-19に関しての論文ではありませんが、
インフルエンザ感染に対する補中益気湯の効果について
書かれた論文があったので読んでみました。

以前からインフルエンザの予防に
補中益気湯が有効と言われています。
インフルエンザウイルスに対する効果が
そのままSARS-Cov-2にもあてはまるのかどうかは
わかりませんが参考になると思います。

”Effect of Hochu-ekki-to (TJ-41), a Japanese herbal medicine, on the survival of mice infected with influenza virus”
(日本の漢方薬である補中益気湯(TJ-41)がインフルエンザウイルスに感染したマウスの生存に及ぼす影響)
Antiviral Research:Volume 44, Issue 2, December 1999, Pages 103-111
(abstract(要旨)のみで、本文閲覧は有料です)
ツムラさんの研究所から1999年に報告された論文です。

マウスに7日前から補中益気湯を投与しておき、
インフルエンザウイルスを感染させた群(予防/治療群)と、
ウイルスを感染させてから補中益気湯を投与した群(治療群)、
蒸留水を投与した群(対照群)で効果を検討しています。
補中益気湯はウイルス感染後4日目まで投与している様です。

投与後21日間観察したところ、平均生存日数は、
予防/治療群で16.8±1.8日、
治療群が12.6±2.0日、
対照群が10.5±1.8日で、
いずれも対照群より生存日数は延長しましたが、
治療のみの投与より、
予防的に投与されていた方が効果的という結果でした。

次に予防/治療群において、
投与量を体重あたり1日、10mg,100mg,1000mgと
変えて21日目の生存率に差が出るかを調べています。

21日目の生存率は、 蒸留水の場合が40%に対して、
10mg/kgで80%、100mg/kgで80%、1000mg/kgで84%
ということで、ほとんど差がありません。
(このデータからすると、補中益気湯を感染予防で用いる場合、
 それほど量は多くなくてもよいということがわかります。)

次に、この時のマウスの肺胞の中のウイルスの強さを
2,4,7日後についてそれぞれ対照群とで比較しています。

肺胞の中のウイルスは、4日目には有意差をもって
補中益気湯を投与されたマウスの方が力が弱っていました。
7日目は対照群との間の差は縮み、有意差がなくなりしまたが、
それでも対照群よりウイルスが減弱している傾向はみられます。
(これは補中益気湯を4日目までしか投与しなかった
 からかもしれませんね。)

次に、どの様にして補中益気湯が
インフルエンザ感染を軽減するかについて検討がなされてます。

ウイルス感染前と感染後:2、4、7日目に
肺胞洗浄液の中のIL-1α、IL-6、GM-CSF、TNF-α、INF-γ、
といった炎症性サイトカインを測定しています。

結果は、TNF-αおよびIFN-γを除いてサイトカインレベルが
4日目に有意に減少していることがわかりました。

次にインターフェロン(INF)の誘導について調べてありました。
蒸留水投与群では、INFはウイルス感染後2日たっても増加せず、
4日目になって急に増えています。
これに対して、補中益気湯投与群では、
2日後からすでに有意にINFが増加しています。
4日後には増加は見られるものの、
むしろ蒸留水投与群と比べて有意に抑制されています。

この増加しているINFは、
抗マウスINF-α/β抗体などを用いて中和してみたところ、
INF-αの増加だとわかったそうです。

これはどういうことでしょうか?
ここで、以前紹介した論文を思い出してください。
COVID-19に関連する論文3
”Type I and Type III Interferons ? Induction, Signaling, Evasion, and Application to Combat COVID-19”


ウイルスに初感染した場合、すぐにはT細胞やB細胞は働きません。
最初に繰り出されるのは
インターフェロンを中心とした自然免疫です。
これがすぐに動員されたら、ウイルスは早期に排除され、
増殖せずに感染は終了します。
最初にインターフェロンの分泌が速やかに行われないと、
ウイルスの増殖もすすみ、
周囲から炎症性サイトカインが過剰に分泌されて
炎症細胞が敵味方関係なく破壊して炎症を鎮めようとするので
正常の組織までやられてしまい身体に大きなダメージが加わります。

ですので、
補中益気湯投与マウスで2日目にINFが速やかに増加する
↑ここがポイントなんだと思います。
その結果、炎症は軽くて済むので、
4日後のINFの分泌は抑制されるのだと思います。

それに対して、蒸留水が投与された対照群では、
INFの誘導が遅れて起こり、
結果的に大量分泌につながります。
これは、対応の遅れを取り戻すため、
なんとか応援を呼ぼうとするしくみなんだと思いますが、
結果的にこれが疾患の重症化につながる様です。

実際に”Type I and Type III・・・”の論文には、
「INFの上昇は疾患の悪化と相関しています」
と書かれています。
自然免疫のINFは初期にさっと働いて、
さっと消えていくのが理想の形なのかもしれません。