COVID-19に関連する論文1

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して
ウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの開発が
急ピッチですすみ、
そろそろ日本でも接種可能になろうとしています。
喜ばしいことかもしれませんが、
安全性についてしっかりと吟味してほしいと思います。

ただ、ワクチンで全てが解決するというわけでもなく、
罹ってしまった場合にも速やか治るような、
そんな治療薬も出てきて欲しいものです。

世界中でいろいろな薬剤の開発が試みられているでしょうし、
既存の薬剤の中で効果のある薬剤の模索もなされています。

で、今回は既存の薬剤を用いた結果の論文を一つ。
Repurposed Antiviral Drugs for Covid-19 ? Interim WHO Solidarity Trial Results
(Covid-19のための再利用された抗ウイルス薬?暫定的なWHO連帯試験の結果)・・・訳はGoogle任せ(^_^;)
出典はNEJM 2020/12/2

この論文ではレムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル、
インターフェロンβ1aの4剤についての報告。

30か国の405の病院で、
レムデシベル  2750名
ヒドロキシクロロキン 954名
ロピナビル 1411名
インターフェロン 2063名(うち651名はロピナビル併用)
と、これらの治験薬なし 4088名を比較。

結果としては、
全体的な死亡率、人工呼吸器の導入率、および入院期間について、
ほとんどまたはまったく影響を与えなかったそうです。
うーん、残念!。

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次の論文に移りましょう。

Combining Antivirals and Immunomodulators to Fight COVID-19
(COVID-19と戦うための抗ウイルス剤と免疫調節剤の組み合わせ)
出典はTrends in Immunology 2020/11/13

この論文は、研究結果の報告というより、
COVID-19の生じるメカニズムの解説と、
そこから考えられる戦略の提案です。

抗ウイルス薬として現在効果が確認されているのは、
C型肝炎ウイルス(HCV)と後天性免疫不全症候群のHIV、
および単純ヘルペス(HSV)・帯状疱疹ヘルペス(VZV)です。

こうした抗ウイルス剤は、ウイルスのライフサイクルの
少なくとも一部を標的として、
初期(侵入)または後期(複製)を阻害することで効果を示します。

この図の左上がウイルスに暴露⇒侵入⇒複製を示します。
免疫反応としてうまくINFα/βが働くと、
感染した細胞が死んで拡大再生産が行われず収束します。

しかし、免疫反応が長く続くと、
免疫細胞から様々なサイトカインが放出され
サイトカインストームを引き起こし、
周囲の組織(肺など)の炎症が生じて重症化します(右上)。

この図の紺色の部分が期待されている抗ウイルス剤です。
左上にレムデシベルと書かれています。

こちらの図は、先の図の左上だけを取り出したものです。

SARS-CoV-2がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)や
タンパク分解酵素(TMPRESS2)を利用して、
細胞内に吸い込まれていく様子か模式図として書かれています。

そして吸い込まれたウイルスからRNAが出てきて、
その設計図をもとに新しいウイルスが産生され、
最終的に細胞の外に出て行きます。

この図の赤い部分が論理的に考えて効果があると思われる
薬剤の働く場所を示しています。
左上のCamostatは慢性膵炎の薬ですが、
TMPRESS2の働きを抑える作用があるとのことで、
ネットで調べてみますと2020/11/10の段階で
臨床試験の第3相が始まっているそうです。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70141

右上にはOseltamivirと書いてあって「?」がついています。
これは先発品で言えば抗インフルエンザ薬タミフルのことですね。
もしこれが効いていたら、
今ごろパンデミックにはなっていないでしょうね。

これは、Oseltamivirがノイラミニダーゼという、
インフルエンザウイルスが細胞内で増えたあと、
外に出ようとする際に必要な酵素を
阻害することで効果を発揮するそうなんですが、
SARS-CoV-2にはこのノイラミニダーゼがないらしく、
効かないだろうということです。

同様に、図の中央に
lopinavir(ロピナビル)、retonavir(リトナビル)などが書いてあり、
やはり「?」がついています。
これらの薬剤はHIVプロテアーゼと呼ばれています。
HIVのウイルスが宿主の細胞に作らせた大きなタンパク質を
小さな部品に切り分ける酵素なんだそうで、
プロテアーゼだから効くのではないかと思われましたが、
上の論文にもありましたが、効果はほとんどありませんでした。

この論文では、HIVプロテアーゼはアスパラギン酸系であり、
SARS-CoV-2のプロテアーゼは
CysーHis(システイン/ヒスチジン)系でキモトリプシン様のもなので、
構造上全く異なると書いてあります。
だから効かないということなのでしょう。

もう一つ効果がやや疑問視されているのが、
(この図では「?」にはなっていませんが)
CQ/HCQ(クロロキン/ヒドロキシクロロキン)です。
これは抗マラリア薬で、僕も大学時代に寄生虫学で習いました。
現在ではマラリア治療よりも、抗炎症作用から
SLEなどの自己免疫疾患の治療に用いられています。

HIVなど他のウイルス疾患にも効果があり、
期待されましたが、Naure 2020/7/22
”Medical research: Assessing the antiviral activity of chloroquine and hydroxychloroquine”では、
顕著な効果は認められなかった様です。
医学研究:クロロキンとヒドロキシクロロキンの抗ウイルス活性の評価

次回に続く