第10回日本耳鼻咽喉科心身医学研究会3

昨日からのつづき

次に、最近注目されている”脳・腸・細菌相関”について

腸内細菌そのものも、ストレスの影響をうけている
ストレスによって交感神経が活性化が起る。
⇒分泌されたノルアドレナリンが細菌のQseC受容体を介して、
⇒細菌からいろいろな物質が分泌される。
⇒分泌された物質は腸の細胞の受容体に作用し、
細菌の増殖に有利に働く。
これは、腸だけでなく、咽頭や鼻腔の細菌でも同じ様なことが
起っている可能性がある

たとえば、酢酸が増えるとIBSが重症化する。

ストレス関連疾患の源流にはDNAのメチル化があるのでは?
動物実験:
生まれたての子どもは、母親からのケアのされ方で、
聴性脳幹反応の潜時は変化する。
マターナルケアが十分になされないとDNAがメチル化。
(ここにセロトニンが関与?)
⇒海馬でのグルココイドレセプターの発現↓
⇒副腎皮質ホルモンの濃度↑、不安↑、次の世代のケア↓
今後人の中で分子レベルの解明が重要視。

扁桃体機能をPETで確認
CRHの投与で扁桃体の活性化が特異的におこってくる。
ここにで大腸を膨らませる刺激をすると、
健常者はさらに反応するが、IBS患者では、
めいいっぱい反応しているので、それ以上反応が上がらない。

CRH投与時のノルアドレナリンを測定
扁桃体の変動とパラレルな変動がみられる。

めまいなどに生じる恐怖感覚
Kandel(ノーベル賞受賞者)の提唱するパラダイム:
聴覚刺激から皮質に刺激が伝達
⇒その後、扁桃体基底外側核でにまでシグナルが伝達しされ、
情報が合わさり連動されると恐怖条件付けが生じる

これのパラダイムは、必ずある内的な条件付けがないと起らない
内的な刺激と外からの感覚が合わさることによって
恐怖のような陰性症状の源流が生じる

扁桃体の中心核から、
Behavioral・Autonomical・Endocrineなどを通して全身に。

こうした条件付けは、不確かさも関与する。
1)視覚刺激が生じたら必ず内臓刺激をする(確か)
2)視覚刺激が生じたら必ず内臓刺激がこない(陰性)
3)視覚刺激が生じても内臓刺激は来るか来ないかわからない(不確か)
⇒3)が最も大きい

不確かー確かの反応差はIBS患者の方がはるかにに大きい。
⇒痛みを感じる中部の帯状回、precuneus、後部帯状回が活性化
痛みを処理する部分で感作が起っている

IBSにおいてゲノムの研究
CRHレセプターの遺伝子多型が関係している。
スプライシングを起こす部分で変異が起っているのではないか。

これは5-HT(セロトニン)のTransporter遺伝子でもみられる。
そして、このゲノム依存型の反応は、ある特定のゲノムでおこる。
それは脳の中のネットワークの程度によっても違う。

IBS:Evidenceに基づく医療・・・ガイドライン
Ramosteronという薬の効果についてのエビデンス:
placeboでも20-30%の奏功率があり、
実薬を使うと、それに20%近いの上乗せ効果がでてくる。

注目点は、プラセボ効果が20-30%あるということ。
もしプラセボ効果がなければ、
実薬で100人中の20人にしか効果が出せないことになる。
つまり、臨床医はこのプラセボ効果も大切にしなければならない

>これは僕もそう思います。
プラセボでも治せるのがいい医者でしょう。

心理療法
IBSに対する認知行動療法・・・エビデンスを証明
難治性IBSに対する自律訓練法も効果を証明
⇒今まで暗示などは軽視されてきた。
しかし、内臓感覚や自律神経機能などには、
トップダウン制御が有用なことがわかってきた。

直腸に30mAの電気刺激(痛み刺激)
鎮痛暗示を加えると痛み感覚は軽くなる

>つまり、「イタイもイタイの飛んでけ~!」
というのは意味があるということかな

IBSと前頭前野
IBSでは前頭前野のボリュームの減少が起っている
IBSは認知症のリスクでもある。
IBSの人たちに高次脳機能をみる検査Wisconsin Card Sorting Test
⇒健常者は間違わないのに誤答が多い
これをfunctional MRIで検討
⇒健常者では前頭前野が活性化するのに、
IBS患者では活性化されない。
これが、大きな間違いを起こしやすい源流であり、
ストレスを感じやすい感受性の増加につながっている。

これをよくするには、
マインドフルネスのようなストレス低減プログラムを提供することで
改善させることができるといわれてきている。

陰性情動を処理するには、
帯状回・背外側前頭前野の機能をうまく上げ、扁桃体等を抑制する
プログラムを提供するとよい。
その一つにマインドフルネスが有用。
他にr-TMS(磁気刺激)でも抑制できることがわかってきている。

IBSの発生機序に関するパラダイム
腸内細菌の変化⇒粘膜透過性↑⇒微少炎症
⇒IL-6などさまざまなうつにも関係するサイトカイン↑
⇒神経感作を介して中枢神経の機能の変化⇒内臓知覚↑

特に内的な感覚が大非常に重要
この感覚がParabrachial Nucleusから
扁桃体・視床下部に直接くる経路を介してストレス応答。
⇒こうしたパラダイムは耳鼻咽喉科疾患でも
どのように起ってくるかという研究がまたれる。

脳科学が支持する心身医学
Antonio R Damasio:Descartes’ Error
デカルトは偉大な科学者だが、
当時間違いだと思われていたスピノザの方が
実は正しかったのではないか
心身は合一であって同時並行で起っている。

フロアからのQ&A
Q)耳鳴もIBSと類似の構造だと思われるが、
末梢に対する治療と中枢に対する治療はどうすべきか?
A)末梢の出来事が中枢で感作されるのあるから、
まずは末梢の治療をしっかりと行う
それでうまくいかない場合には中枢の治療を加えるのがよいと思う。

Q)心身相関の疾患はを機能的なものと器質的なものに分類することについて
A)臨床的には有用だが、近年、科学の進歩より、そうした分類はナンセンスになってきてた。精神科領域の疾患でも分子レベルでは変化が生じていることから、厳密な区別はできなくなってきたから。