本:「あ」は「い」より大きい!?4

調子にのってこのシリーズ4まで延長してしまいました。

もう一つ、この本の中に次のような文があります。
「ふ」と「す」は流れている?(p.129)
つまり、
「ふわふわ」というと「雲が流れている感じ」、
「すいすい」とか「さー」というと「水が流れている感じ」が
するというわけです。

「ふわふわ」の「ふ」や、「すいすい」の「す」、
あるいは「さー」という音は、
確かに感覚的にも口から空気が流れ出てくるのがわかります。

音声学者は実際に、こうした音を発せられた時の
口から流れ出てくる空気の量を調べています。
すると、”無声摩擦音”と呼ばれるこうした「ふ」とか「す」の音は、
確かに実験結果からも流れ出てくる量が多いそうです。

どこで読んだか思い出せないのですが、
次のようなことを思い出しました。

もともと古語は発音の音自体が意味を持っていたそうで、
たとえば「ふ」という音は、
「吹き出す」という意味があるらしく、
藤の木は「フ」+「ジ(=ヂ=地面)」なので、
地面から吹き出している様に伸びている樹木なので、
「フジ」という名前がついたとか。
同様に富士山は地面から吹き出すようにそびえ立つ山。

言葉というのは人に意思や感情を伝える手段であり、
そのためには、
自分の感覚を相手の脳の中でに再現させることが必要です。
それには、共通するプラットホームがあると便利なわけで、
その一つが口腔を空気の流れる感覚であったり、
その時の圧の感覚であったりしたのだろうと思います。

それにしても、
「ふわふわ」とか「フラフラ」という言葉は、
めまいを表現する時にもよく用いられます。
そういえば、僕が丹後の病院に赴任していた頃、
当地の人は、めまいの状態を「ふいふいする」と表現されていました。

このオノマトペに共通する「ふ」は、浮遊の「ふ」でもあるわけです。
おそらく「吹き上げる」の「ふ」にも通じるのでしょう。

では、「ふわふわ」と「フラフラ」の違いは何なのでしょう?
「わ」と「ら」の違い。
一般的には、
「ふわふわ」は上下に揺れている感じを表現していると思います。
「フラフラ」は左右や、時に前後の揺れを表現している様に思います。
「わ」や「ら」の音に、上下左右のイメージがあるのでしょうか?
これは今後の課題ですね。

最後に、もう一つ思いついたこと。
強いイメージは濁音や阻害音(濁音をつけられる音)だと
音象徴の音声学で学びました。
そこで僕は、ふと『般若心経』のことを思い出しました。

般若心経には最後に真言(マントラ)が書いてあります。
これは普通、意訳せずにこのまま唱えよとされています。
掲諦掲諦 波羅掲諦 波羅僧掲諦 菩提薩婆訶
という文ですね。

般若心経のこの真言部分は、
災厄除けの功徳を持つものとして唱えられています。
中々読むのも難しいのですが、
ぎゃーてーぎゃーてー はらぎゃーてー
はらそーぎゃーてー ぼじそわかー
と発音します。

この音を、前に出てきた阻害音(赤)と共鳴音(青)に分けてみます。
ぎゃーてーぎゃーてー ぎゃーてー
そーぎゃーてー ぼじそ
かー
ほとんどが阻害音です。
つまり、この真言そのものが
かなり強いイメージを湧かせるように出来ているわけです。
いわば、ライオンの「ガオー!」という叫び声と
同じ効果があるわけですね。

もちろん、真言はそれ自体に、
もっと神秘的な力があるのでしょうけど、
その力強さの一つは音象徴からも明らかだと思います。