本:耳鳴りがスッキリする呼吸がわかった1

『耳鳴りがスッキリする呼吸がわかった』 石井正則 著,マキノ出版

耳鼻咽喉科領域の扱う症状の中で、Tinnitus
耳鳴りはかなり難しいものの一つです。

当科でも、耳鳴りでお困りの患者さんが
毎日何人かは受診されます。
何とか、少しでも良くなってもらおうと、
あの手この手と、いろんなことを駆使して
日夜診療を行っています。

近年、耳鳴りのメカニズムについて
一般的に考えられているのは、
”発生源は内耳だけども、増悪させているのは脳である”
”耳鳴りは脳で聴いている”
という考え方です。

一般的な耳鳴りは、内耳の有毛細胞が弱った結果、
あるいは壊れた結果、
その情報が耳鳴りとして脳に伝達されるのですが、
脳の情報処理がうまく行われていると、
脳の皮質下と呼ばれるところでその情報は却下されて、
大脳皮質に上がることなく処理されますが、
脳がその情報を重要視すると、大脳皮質に上がってきて、
耳鳴りとして認識されるようになります。

そして、それをさらに悪い方に増幅させているのが、
快・不快を感じる大脳辺縁系と
身体の症状とリンクさせる自律神経系による、
苦痛のネットワークだと言われています。

ですので、大脳辺縁系と自律神経系が興奮する状態が続くと、
耳鳴りを大脳にあげる皮質下の働きまで活性化されて
耳鳴りを大きく感じるようになるわけです。

大脳辺縁系や自律神経系が興奮する状態、
それは結局、寝不足・疲れ・ストレスなどです。

そこで、我々医師は、
「寝不足・疲れ・ストレスをためないようにね」
と患者さんに言うわけですが、
そんなことは患者さんからすれば、
(もちろん気がついていない人もたくさんいらっしゃいますが)
それをどうしたらいいかわからないから困っていらっしゃるわけです。

もちろん、物理的に睡眠が足りていないのなら、
睡眠時間を確保して寝るしかないのですが。
交感神経が興奮してしまって眠れない人も多く、
それが、また苦痛のネットワークをより強固なものにして、
悪循環が繰り返されている人もいます。

そうした場合、どこかで悪循環を断ち切る必要があるのですが、
それにはどうするか。
3つあります。

一つは当然ですが、聴力を改善させること。
多くの場合、聴力が落ちた結果、耳鳴りがしているのですから、
聴力を改善させれば耳鳴りは小さくなります。
まあ、古い難治性の耳鳴りの場合それが最も難しいのですが。

もう一つ一つは前頭葉(前頭前野)から抑制を効かせる方法。
これは、きちんとした知識を持っていただくことで、
耳鳴りに対する認知が間違っていることを理解してもらい、
耳鳴りへのこだわりを解消していくことになります。
つまり、怖い怖いと思っていたら柳の木も幽霊に見えて怖いのですが、
それが柳の木だとわかったら、「なーんだ」となる様なものです。

そして、3つ目の方法は、自律神経に働きかける方法です。
つまり、交感神経優位を、副交感神経優位にさせる方法です。
それにはどうしたらよいか?、
結局のところ呼吸による働きかけがどうも一番効果的なようです。

前振りがすごく長くなってしまいました。
続きは明日。