「次回に続く」と書きながら、はや2週間たってしまいました。
午後からは一般演題後半です。
テキスト”栄養精神医学 第1巻 第1号”を参考にしています。
8.リコード法により認知機能と周辺症状が改善した80歳女性
リコード法(ReCODE protocol)
アルツハイマー病を多因子性の認知症症候群と考え、
修正可能な因子を包括的に整える介入モデル
・栄養因子:ホモシステイン高値やB12低値は、見逃してはいけない修正可能因子
・低GI食、絶食時間延長、良質な脂質の摂取は、脳のエネルギー基盤を安定化
・ビタミンD、オメガ3、ポリフェノールは神経炎症沈静化に有効
・環境毒素の除去=空気や水の質を整えることは認知症治療において重要
・上記の多面的アプローチの相乗効果
9.フェリチン検査が胃がんの発見につながったむずむず脚症候群の73歳男性症例
初診時Hb9.7g/dL、血清鉄28㎍/dL、フェリチン18.9ng/mLと鉄欠乏性貧血を認めた
消化器精査:胃角部の中分化型腺癌を発見
数値以上に潜む原疾患を必ず確認する
特に高齢男性の場合、消化管出血をまず疑う
10.治療抵抗性のうつ状態に対して食生活の積極的な見直しが有用であった女性の1例
不眠・不安・無気力などを呈し多剤併用療法を受けていた女性
薬剤調整と並行し、えごま油によるオメガ3脂肪酸補給、
鉄瓶での鉄摂取、発酵食品や玄米も導入、
精製糖制限などの栄養介入を実施し、半年で抑うつ・不安が改善し、
2年後には免疫関連症状も軽快、5年後には断薬に至った
注目すべきはオメガ3脂肪酸の抗炎症作用
n-3脂肪酸が抑うつ症状を改善
1~1.5g/日前後が最も効果的で2g/日を超えると
追加のメリットが減るU字型の用量反応
11.鉄欠乏性貧血を伴う統合失調症女性に対する妊活期の食事・栄養支援に難渋した1例
鉄欠乏性貧血の補正は妊娠力と精神安定の基盤
妊活期に鉄を補正することは母体と胎児双方の健康に直結するきわめて重要な介入
低炭水化物食は排卵障害や黄体機能不全を悪化させるだけでなく、
低血糖による不安・抑うつ増悪を引き起こすことがある
12.産後発症の疲労と焦燥を伴う疼痛性障害に栄養精神医学的な介入を試みた40歳代女性例
エストロゲンはオピオイド系やセロトニン系を増強し、
関節・筋膜の疼痛閾値を引き上げるが、
分娩直後にエストロゲンは急落し、
その低下により痛覚過敏が起こりやすくなる
13.食事指導と漢方にて倦怠感・意欲低下・無気力・食欲低下・頭痛・腹痛が改善した不登校の高校2年男子
薬物療法・精神療法では改善が乏しく、
清涼飲料水・小麦加工食品・菓子類制限、和食中心への食事指導を行い
あわせて漢方薬を併用することで、
身体症状と精神症状が改善し、復学が可能となった
機能性低血糖+腸内環境の乱れ+鉄欠乏(絶対的+機能的)+起立性調節障害
という4つが重なっていたことを、
食事指導(栄養)と漢方で丁寧に解きほぐし、復学に至った好例
このあと、最後に特別講演が2席
特別講演I
「症例から読み解く栄養精神医学の臨床」
藤田康孝先生
・症例1:栄養医学的なアプローチが奏功したADHDを併存する強迫性障害の22歳女性
フェリチン↓・TIBC↑:絶対的鉄欠乏
ALP↓:ビタミンB6不足
TP↓・BUN↓:タンパク質不足とタンパク質代謝低下(ビタミンB群不足)
・症例2:質的な栄養不良を起こしている慢性期統合失調症の51歳女性
BUN8.6↓:総タンパク不足=アミノ酸供給不足+ビタミンB群の不足
通常フェリチンが1桁であれば、
鉄を運ぶトラックをたくさんつくる必要があるので
TIBCはもっと高い数値になるはず
⇒トラックを十分作れないほどのタンパク質代謝の低下
このような「鉄とタンパク質の複合的欠乏状態」では、
まずタンパク質代謝を改善し、
アミノ酸とビタミンB群を十分に補給することが治療の基本になる
・症例3:飲酒行動が止められない気分変調症の40歳女性
アルコールによる代謝・栄養障害:
慢性飲酒は小腸粘膜を傷害し、葉酸の吸収を阻害
さらにアルコール性胃炎により胃酸や内因子が低下すると、
ビタミンB12の吸収障害が加わりやすくなる
まずビタミンB1(チアミン)の補充を優先
ウェルニッケ脳を避けるためにも、経口であっても100mg/日以上
次に十分なタンパク質摂取を指導
1.0~1.2g/kg/日を目安に朝昼夕の三食に分配し、
必要に応じて捕食を組み合わせることで、
血糖変動を安定させ、希死念慮や情動の波を抑えることが可能になる
加えて亜鉛の補充:25-50mg/日
気分安定やストレス耐性の改善に寄与し得るとされている
さらにビタミンB群の補充
ビタミンB6:セロトニン・ドーパミン・GABAといった神経伝達物質の生成を助ける
葉酸とビタミンB12:メチル化回路を介して遺伝子発現や神経機能を調整
ビタミンB2やナイアシン:エネルギー代謝を支え
ビタミンB1:脳のATP産生を安定化させる
これらの補充により、抑うつや不安の改善につながるケースが多く報告されている
その他ビタミンDやEPA優位のオメガ3脂肪酸
特別講演II
「精神科クリニックにおいて栄養精神医学的視点を取り入れた4症例」
伊藤健太郎先生
・症例1:ドクターショッピングを繰り返すが亜鉛糖の栄養療法導入により改善を認めた摂食障害23歳女性
摂食障害では亜鉛欠乏が併存し、味覚異常・食欲調節・情動不安定に影響するため、
鉄・亜鉛・B群を「同時に底上げ」する発想が要
・症例2
:栄養療法導入後抑うつ症状が改善し人気イラストレーターになったうつ病の28歳女性
栄養精神医学の視点から見た有経女性の鉄欠乏とうつ状態
鉄は脳の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなどモノアミン)を作るうえで
欠かせな触媒(補酵素)
セロトニンやドーパミンは気分の安定、やる気、楽しさを感じる”心のガソリン”
これらの合成にかかわるチロシン水酸化酵素や
トリプトファン水酸化酵素は鉄がないと正常に働かない
鉄は体内のエネルギー工場であるミトコンドリアで重要な役割を果たしている
ミトコンドリアはATPというエネルギーを生み出す発電所
電子伝達系というシステムの中で鉄を含むヘム酵素や
鉄硫黄クラスターが中心に働いている
鉄が不足すると、発電所の部菌が欠けて効率が落ち、
体も脳も”電池切れ”状態になる
これを”中枢性疲労”と呼ぶ
その結果、「頭がぼんやりする」「やる気が続かない」「思考力が落ちる」
といった症状が出やすくなる
特に前頭葉(実行機能をつかさどる部位)や、
報酬系(達成感や喜びを感じる神経回路)が、
エネルギー不足に陥ると、
「やらなきゃいけないのに動けない」「考えたいのに頭が回らない」といった
抑うつの行動表現が強まる
・症例3
:元来の不安・身体化傾向に新型コロナウイルス感染症後多彩な症状尾を呈し、
5-ALA等により改善傾向を認めた57歳女性
5-ALA(5-アミノレブリン酸)は、
体の中で鉄と結びついて「ヘム」をつくるための”出発物質”
ヘムは赤血球に含まれるヘモグロビンの材料であり、
酸素を運ぶ役割だけでなく、
ミトコンドリアの電子伝達系(シトクロム群)の働きにも欠かせない
・症例4
:ビタミンB群、潜在性鉄欠乏の改善により試験の点数が大幅に向上した
家族機能不全、注意欠陥多動障害疑いの15歳男性
貧血はないものの明らかな潜在性鉄欠乏
鉄は脳の神経伝達物質をつくるために不可欠
鉄が不足すると前頭葉のネットワークの効率が下がり、
注意力や記憶の一時保管であるワーキングメモリに悪影響を及ぼす
ADHDの研究では、低フェリチンが症状の重さと関連し、
鉄補充で改善することが報告されている
食習慣と血糖の影響
問診で、「お菓子や菓子パンが中心」「食後2~3時間で強い眠気」:
反応性低血糖の特徴
血糖が乱高下すると記憶力は低下しやすくなる
勉強になりました。
